推し活×心理

推し活と​幸福度|研究データで​見る​「推しが​いる​人」​の​心と​健康

「推しがいると人生が楽しい」という実感は、多くのファンが口にします。では、それは数字として確かめられているのでしょうか。ここ数年で、推し活と幸福度を正面から測った調査が一気に増えました。

推し活と幸福度のイメージ

紹介する調査では、推し活をする人としない人の幸福度に差が見られます。企業が施策の説明に使う際には、調査対象と質問内容を確認し、関連があることと、推し活による効果が証明されたことを分ける必要があります。

幸福度が高い調査も、全体平均と近い調査もある

ASAKOの調査では、推し活実施者の幸福度・自己肯定度が非実施者より高くなっています。一方、Pontaリサーチの総合的な「ととのい度」は、実施者49.8点、全体平均50.1点でした。 指標が違うため、そのまま比べることはできません。どちらも、推し活を始めれば幸せになると証明した調査ではありません。

まず、「推しがいる」と「推し活をする」は別の数字

調査によって推し活人口の数値が食い違って見えるのは、測っている対象が違うためです。

調査実施時期・対象数字
CDG/Oshicoco2025年1月・15〜69歳23,069人16.7%が推し活を実施。人口換算で約1,384万人
矢野経済研究所2025年7月・10,000人オタク層のうち「推し」がいる人は64.2%
ロイヤリティマーケティング2025年8月・9,904人全体の36.1%が推し活を実施、20代女性は59.7%

ビデオリサーチの2024年の調査では、Z世代(15〜26歳)に限れば62.1%が推しを持つとされます(ビデオリサーチ)。年間支出はジャンルによって大きく異なります。国内アイドル推しが平均約48,000円、ミュージシャン推しが約34,000円、K-POP推しが約27,000円、アニメ・マンガ推しが約10,000円でした(インテージ調査、財務省コラムに掲載。関連: ビデオリサーチ ファンエンゲージメント研究調査)。「推しがいる」ことと「お金と時間を使う推し活をしている」ことのあいだには、はっきりした差があります。幸福度の話をするときは、どちらの層の話をしているのかを見分ける必要があります。

市場規模については、CDGとOshicocoが2025年1月に23,069人を対象に調査を行いました。この調査では、推し活人口は前年より250万人増えて約1,384万人、市場規模は3兆5千億円と報告されました(CDG 第2回推し活実態アンケート調査)。矢野経済研究所の調査では、31分野の一人あたり年間平均消費金額は50,472円でした。最多回答帯は10,000〜50,000円未満(31.3%)です(矢野経済研究所「オタク」に関する消費者アンケート調査)。

幸福度と自己肯定度の差は、どれくらいか

推し活と幸福度の関係を最も直接的に測っているのが、ASAKOが5年続けているウェルビーイング調査です。第5回の調査は、2025年11月に全国20〜80代の2,800人を対象に、60項目の自記式アンケートで行われました。結果は次のとおりです(ASAKO ウェルビーイング調査第5回)。

指標全体推し活実施者
幸福度63.8%67.3%
自己肯定度43.9%50.6%

ASAKOは、非実施者との差を幸福度で3.9ポイント、自己肯定度で7.5ポイントと報告しています。この差の比較先は、表の「全体」とは異なります。

幸福度より大きな差が出たのは、自己肯定度のほうです。全体の自己肯定度は第1回以降一貫して50%を下回っているのに、推し活実施者だけが50.6%と半数を超えています。ただし、推し活によって自己肯定度が上がったかどうかは、この比較だけでは分かりません。

なお同調査では、全体の幸福度は前回より3.5ポイント低下しました。社会全体の指標が下がるなかで、推し活層が上に位置しているという構図です。推し活が幸福度を押し上げたと断言できる材料ではありません。

「癒される・安心」は、体験した人が最も多い項目

推し活をする人は、どんな体験をしているのでしょうか。ロイヤリティマーケティングは2025年8月、Pontaリサーチ会員9,904人(うち推し活実施者3,573人)を対象に調査を行いました。「Pontaリサーチ」調べでは、直近1カ月に実感したポジティブ体験の第1位は「癒される・安心」で35.6%でした(ロイヤリティ マーケティング 推し活調査)。

ここで分けたいのは、体験した人の多さと、その体験の重要度です。幸福感にとっての重要度では「毎日が楽しい」が最上位でした。「癒される・安心」が最も大切だと全員が答えたわけではありません。

同社の独自指標「ととのい度」では、推し活実施者の総合値は49.8点で、全体平均50.1点と近い結果でした。ジャンル別ではテーマパーク・エンタメ施設が51.5点と最も高くなっています。この数字だけで、推し活が幸福度を上げたとは判断できません。

研究所では、推し活の体験を考える視点として次の四つを挙げます。今回の調査で確認された因果関係を並べたものではありません。

  1. 情動の充足:見ているあいだ、気持ちが落ち着く
  2. 日常への張り合い:次の配信、次の参戦という予定が生活を区切る
  3. 自己効力感:目標を立てて達成する経験を、仕事や学業の外で持てる
  4. 社会的つながり:オタ友との会話や共通の話題を楽しむ

このうち3番と4番は、なぜ人は推しにハマるのかで扱った自己拡張の働きと重なります。ただし、こうした経験がASAKOの自己肯定度の差を生んだかどうかは、別に確かめる必要があります。

ネガティブ体験は、お金の浪費が最多

同じPontaリサーチの調査で、直近1カ月のネガティブ体験の第1位は「お金の浪費」で17.1%でした。次は「時間の浪費」の13.5%です。一方、解消することの重要度では「推しの言動に対する不満」が最上位でした。頻度と、本人にとっての重さは分けて読む必要があります。

金銭面は、対策のしやすい領域でもあります。月の上限を先に決める、家計と切り分けて管理する、遠征費は先に積み立てる。推し活家計簿や推し活貯金、現場積立は、支出の負担を把握するための方法です。学生であれば学生の推し活お金事情も合わせて確認しておくと、無理のない枠を作りやすくなります。

相関はあっても、因果はまだ言えない

集団間に差があっても、その理由は別に調べる必要があります。推し活をしたから幸福度が上がったのか、もともと心身に余力がある人ほど推し活を始めやすいのか。ここで紹介した国内調査の比較だけでは、この二つを切り分けられません。

海外の研究にも慎重な結果があります。2025年3月に、インド在住の若者124名(平均20.6歳)を対象とした混合研究法の調査が発表されました。この調査では、パラソーシャル関係の強度そのものは心理的ウェルビーイングと有意な関連を示しませんでした(International Journal of Adolescence and Youth (2025))。パラソーシャル関係とは、メディア越しの相手に一方向の親しみを抱く関係のことです。この研究では、関係が強いほど幸福度も高いという傾向は確認されませんでした。推し活を通じたつながりや達成感が幸福感にどう関わるのかも、別に調べる必要があります。

国内でも学術的な検討は始まっています。東京保健医療専門職大学の宮田雅之教授は2024年、学術誌に「Well-being and “Oshikatsu”」を発表しました(J-STAGE 掲載論文)。ファン心理そのものを扱う研究は、日本でも2000年代から積み重ねられてきました。関西大学の「ファン心理の構造」は、その初期の代表例です(関西大学リポジトリ ファン心理の構造)。推し活という新しい言葉で測られている心の働きには、実はかなり長い研究史があります。

幸福度の調査と参加の負担を分けて考える

ASAKO調査では、比較した集団の差は3.9〜7.5ポイントでした。この差だけでは、支出額や活動時間を増やしたときに幸福度がどう変わるかは判断できません。企業が参加回数や購入額の増加を勧める根拠として、そのまま使わないことが必要です。

次はファン本人が活動を振り返るための例です。企業の担当者は、施策で生じうる負担を考える参考にできますが、幸福度の測定や個人の診断には使えません。

  • 推し活のあとに、気持ちが回復している(消耗していない)
  • 支出が、先に決めた上限の中に収まっている
  • 推し活以外の予定を、推しのために全部空けることをしていない
  • 使った金額と、推しへの気持ちの強さを結びつけて評価していない
  • 熱が落ち着いた時期があっても、自分を責めていない

最後の項目は特に大切です。冷め期や推し活休止は失格の印ではなく、幸福度を保つための調整です。しんどさが長く続いて生活に支障が出ている場合は、推し活の工夫だけで抱えず、医療機関や自治体の相談窓口を利用してください。本記事は一般的な解説であり、診断や治療の助言ではありません。

最近の動き

2025年は、推し活が「気分の話」から「測る対象」へ移った年でした。8月にはロイヤリティマーケティングが、幸福度とウェルビーイングを軸にした調査を実施しました(公表は2026年1月)。11月にはASAKOが5年目の定点調査を実施し、推し活との関連を調べました(引用した解説記事は2026年4月24日公開)。1月にはCDGとOshicocoが、市場規模3兆5千億円という数字を示しました。11月には、財務省が広報誌「ファイナンス」で推し活を経済トレンドとして特集しました(財務省「ファイナンス」2025年11月号)。政策の側でも、ウェルビーイングは内閣府が2019年頃から継続調査している領域です(内閣府 満足度・生活の質に関する調査)。

因果関係を考えるには、同じ人を継続して調べ、推し活を始める前後の変化や生活環境の違いも見る必要があります。一時点の幸福度の比較だけで、効果を決めつけないことが大切です。

推し活未来研究所メモ:測るべきは熱量ではなく回復量

企業やクラブがファン施策の効果を測るとき、指標になりやすいのは購入額・来場回数・視聴時間です。Pontaリサーチでは「癒される・安心」を体験した人が多い一方、重要度では「毎日が楽しい」が上位でした。購入額から分かるのは支出の大きさであり、愛情や満足度を直接測れるわけではありません。

研究所では、売上に加え、参加後の満足と負担を確かめたいと考えます。楽しかったことと、しんどかったことの両方を聞けているか。 待ち時間、支出への納得、次も参加したいかを聞けば、売上の数字だけでは見えない体験を考える材料になります。調査の集団差から、翌年のファン数を予測することはできません。

お金や時間をあまり使わずに楽しむ人も、ファンの一人です。関わり方を選べる余地を残したいと考えます。無料で触れられる導線、一人でも入りやすい企画、休んでも戻れる会員制度。企業側では、参加方法ごとに満足した点や負担だった点を聞き、購入額や視聴時間と合わせて評価したいところです。集団の幸福度の差から、個々のファンの心の余裕を推定しないことも必要です。

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よくある質問

推し活をしている人は幸福度が高いのですか?

調査によって結果が異なります。ASAKOの2025年調査では、推し活実施者の幸福度は67.3%で、非実施者より3.9ポイント高い結果でした。自己肯定度は50.6%で、非実施者より7.5ポイント高くなっています。一方、別の調査の総合指標では、推し活実施者が全体平均を上回ったわけではありません。

推し活をすれば幸せになれますか?

ここで紹介する調査から分かるのは、回答者の傾向や集団間の差です。因果関係までは確認できません。推し活が幸福度を上げているのか、もともと余力のある人が推し活をしやすいのかは、切り分けられていません。

推し活で一番多く得られる感情は何ですか?

ロイヤリティマーケティングは、2025年8月に9,904人を対象に調査を行いました。ポジティブ体験の1位は「癒される・安心」で35.6%でした。これは体験した人の割合です。幸福感にとっての重要度では「毎日が楽しい」が最上位でした。

推し活のネガティブな面は何が多いですか?

同じ調査では、ネガティブ体験の1位は「お金の浪費」で17.1%でした。体験した割合が最も高い項目です。解消することの重要度では「推しの言動に対する不満」が最上位でした。

お金や時間をかけるほど幸福度は上がりますか?

ここで紹介する集団間の比較だけでは、支出や時間を増やしたときに幸福度がどう変わるかは分かりません。使った量から満足の高さを決めつけないことが大切です。