推し活×心理

な​ぜ人は​推しに​ハマるのか​|作品・​本人・​語る​楽しみから​考える

最初は一曲だけ聴くつもりだったのに、過去のライブ映像まで見ていた。作品から入ったはずが、出演者の話す言葉や、ファンの感想を読むことも楽しみになった。推しを好きになる道筋は、入口と今とで変わることがあります。

音楽や映像を楽しむ推し活のイメージ

「なぜこんなに夢中になるのだろう」と思ったとき、原因を一つに決める前に、何を楽しんでいるのかを見てみましょう。ここではファン心理の研究を手掛かりに、作品、本人、ほかの人との関わりから考えます。

作品が好きになり、楽しみ方が増えていく

推しとの出会いは、必ずしも本人への憧れから始まるわけではありません。歌の一部分、スポーツのプレー、物語のせりふなど、ひとつの表現がきっかけになる場合があります。

そのあと、同じ作品の別の場面を見る、制作に関わった人の話を読む、過去の作品へ戻る。知る対象が増えれば、好きな点の説明も変わります。「声が好き」から「この曲では声の使い方が違うことが面白い」へと、関心が細かくなっていくこともあるでしょう。

日本心理学会の「心理学ワールド」で、小城英子氏は、ファンの心理を、作品や本人の魅力、社会的な関わりなどを含めて論じています。小城氏の解説は、ファンになることを恋愛感情だけで説明しないための手掛かりになります。

一方で、その整理を使えば一人ひとりの理由がすべて分かるわけではありません。好きな曲を聴くだけで満足する人もいれば、出演情報を読むことや、感想を話すことまで楽しむ人もいます。どちらが深いファンかという順位ではありません。

図解一つの作品から、関心が広がる例
  1. 一曲に出会う歌声やフレーズが気になり、もう一度聴く
  2. 違いを見つけるライブや別の作品で表現の変化を楽しむ
  3. 背景を知る公式インタビューや制作の説明に触れる
  4. 自分の楽しみが増える記録、創作、会話など、好きな方法を選ぶ

これは全員が進む順序ではありません。途中から始まっても、一曲に戻ってもよいのです。

作品の向こうにいる人を知りたくなる

作品を繰り返し見るうちに、どんな人が作ったのか、何を考えて演じているのかを知りたくなることがあります。インタビューや配信は、そのための入口になります。

例えば、普段は完成したステージだけを見ていた人が、公式の制作映像で準備の話を知る。次に同じ曲を聴いたとき、以前とは違うところに気づくかもしれません。作品と、それに関わる人への関心が行き来する楽しみです。

ただし、公開された発信で分かるのは、その場で示された内容です。長く見ていることと、その人の生活を隅々まで知っていることは同じではありません。親しみを感じる気持ちを大切にしながら、公開されていない部分まで想像で埋めなくても構いません。

「もっと知りたい」が、本人の私生活を探す方向へ向かっているなら、作品や公式の発信へ戻る方法があります。親しい気持ちと、相手へ踏み込んでよい範囲は、分けて考えられます。

自分の感想を話せることも楽しみになる

同じ場面を見た人の感想を読み、自分とは違う点に気づく。好きなものについて話すうちに、自分がどこを面白がっていたのか分かってくる。推しを通じた会話そのものが、楽しみの一部になることもあります。

例えば、ライブで印象に残った曲を一つずつ挙げると、友人は衣装の色を、自分は間奏の演奏を覚えていた。違う見方があるから、同じ公演をもう一度思い返せます。感想が一致することだけが、交流のよさではありません。

もちろん、誰かと話す必要はありません。一人で音楽を聴く、自分用のノートに感想を書く、写真を整理するなど、公開しない楽しみ方もあります。投稿数や友人の多さが、夢中になった度合いを表すわけではないのです。

交流が楽しかった時期を経て、今は一人で楽しみたいと思うこともあるでしょう。ファン同士の付き合い方を変えるからといって、推しへの気持ちまで変える必要はありません。

推しを入口に、別のものを好きになることもある

推しが紹介した本を読み、その作家の別の作品にも興味を持つ。試合を見に行くために初めて降りた駅で、気に入る店ができる。衣装を見て色の組み合わせを考え、自分でも描いてみる。こうした出来事では、始まりが推しでも、後に残る楽しみは一つとは限りません。

ここから「推し活をすれば必ず成長する」と結論づける必要はありません。本を最後まで読めなかったり、新しい趣味が続かなかったりしても、応援の失敗ではないからです。役に立つことを増やすためだけに、好きなものを楽しむ必要もありません。

それでも、すでに増えた楽しみを見つけることはできます。推しに関する発信を見ない日にも、好きになった曲や店、作ることまで失われるわけではありません。対象への気持ちと、自分の経験の両方に目を向けられます。

図解「夢中」の中で、何を楽しんでいるか

対象にひかれる楽しみ

  • 歌や演技、プレーをもう一度見たい
  • 制作や出演についての話を知りたい
  • 活動の変化を見届けたい

自分の側にある楽しみ

  • 感想を書いたり話したりしたい
  • 新しく知った場所や作品を楽しみたい
  • 自分でも作ることを試したい

「好き」より「追わなければ」が増えたら

夢中になる理由を知ることと、すべての更新を追い続けることは別です。楽しみの種類が増える一方で、通知、出演情報、販売の締切も増えて、自分が何をしたかったのか分からなくなることがあります。

そんなときは、最近よかった出来事を一つだけ思い出してみます。「全部の配信を見た」ではなく、「あの曲の話を聞けたことがうれしかった」など、実際に楽しんだ内容を残す方法です。そのうえで、次も同じ形で楽しみたいのか、今は別の方法が合うのかを選べます。

通知を減らす、リアルタイムで見る回を選ぶ、次の発売は見送る。通知や購入の予定は、今の生活に合わせて変えて構いません。気持ちが変わったときも、その時点の楽しみ方を選び直せます。詳しくは推し活疲れや推しとの距離感で、具体的な場面を扱っています。

企画する側は、行動の数だけで理由を決めない

企業や運営がファンの行動を見るとき、視聴回数、購入額、参加回数だけから、何にひかれているかを読み切ることはできません。同じ動画でも、楽曲を聴く人、衣装を見る人、過去の思い出を重ねる人がいるためです。

感想を聞くなら、「どの場面をもう一度見たいか」「何をきっかけに知ったか」など、経験を話せる問いを用意する方法があります。回答を全員へ求めず、一人で鑑賞している人の利用方法も確かめます。公開された反応の多さだけで、すべてのファンが何を望んでいるかを決めないためです。

ファン自身にとっても、「好きになった理由はこれだけ」と言い切れなくて構いません。いま面白いと思っているものを一つずつたどると、最初とは違う楽しみが見つかるかもしれません。

関連記事:沼とは/推しとの距離感

よくある質問

推しにハマる理由は一つですか?

作品や本人の魅力、ほかの人と語る楽しみなど、関心の向き先は重なったり変わったりします。すべての人を同じ理由で説明する必要はありません。

推しに恋をしていなくてもファンですか?

作品、演技、歌、プレーなどを楽しむ形もあります。恋愛感情の有無で応援の深さが決まるわけではありません。

感想を投稿しないと楽しめていないのでしょうか?

一人で鑑賞したり、自分用に記録したりする楽しみ方もあります。投稿数や友人の多さは、その人の楽しさを測る基準ではありません。

更新を全部追うのがつらくなったら?

最近楽しんだ出来事を思い出し、通知や見る回、申し込みを選び直す方法があります。好きな理由を証明するために、すべてを追う必要はありません。