推し活×百貨店・商業施設|ポップアップストアが集客装置になった理由
百貨店やショッピングセンターでは、作品の展覧会や期間限定ショップが開催されています。限定グッズや展示を目当てに訪れるファンに、来店してもらう機会をつくる企画です。

百貨店とショッピングセンターにとって、推し活は「売り場の余白を埋める企画」から「来店動機そのもの」へと位置づけが変わりました。各社は、売り場面積と催事日程という限られた資源を、期間限定のIPコラボに割き続けています。その根拠と、企画を運営するための実務を整理します。
施設側から見た推し活の2系統
商業施設における推し活対応は、大きく2つに分かれます。
ひとつは催事場・イベントスペースを使った期間限定型です。原画展や展覧会型イベント、ポップアップストアがこれにあたります。会期は数日から3週間程度で、終われば什器ごと入れ替わります。
もうひとつは季節催事や既存商戦へのコラボ組み込みです。おせち・バレンタイン・大型セールなど、施設がもともと持っている商戦にキャラクターを掛け合わせる方法です。催事場を空けなくても実施できます。
市場の裏付けもあります。CDGの第2回推し活実態アンケートによれば、推し活人口は1,384万人で、前年の1,136万人から約250万人増えました。市場規模は約3兆5千億円、年間推し活支出額は1人あたり平均約25万5,035円です。伸びが目立つのは30代前半女性で、推し活実施率は30.4%と前年から8.2ポイント上昇しました。百貨店が主要顧客と位置づけてきた層と、推し活層は重なり始めています。
事例で見る、集客装置としてのポップアップ
実際の企画では、2つの系統のなかでも、何を集客の中心に置くかで違いが出ます。
松坂屋上野店 × SAKAMOTO DAYS FES
狙いは、TVアニメ初の展覧会型イベントという座組で新規客を呼ぶことでした。2025年9月25日から10月7日まで松坂屋上野店6階催事場で開催し、その後は大阪(10月16日〜11月3日)と福岡(11月7日〜11月20日)へ巡回しました。描き下ろしイラストを使ったグッズ販売、フォトスポット、立体展示を組み合わせています(大丸松坂屋百貨店プレスリリース)。巡回終了後には一部商品を除き事後通販が実施されました。
研究所の見立てでは、この企画の要点は「初の展覧会型」という一度しか使えないフックを取りにいったことです。同じ内容でも「初」が付くかどうかで、メディアの取り上げ方とSNSの拡散量は変わります。IP側の周年・節目の情報を早くつかめるかどうかが、催事の競争力を左右します。
三越伊勢丹 × アイドルマスターシリーズ コラボおせち
コラボおせちは、2025年11月5日から12月2日まで三越伊勢丹オンラインストアで予約販売されました。キャラクター(千早)の振り袖姿の描き下ろしイラストを使い、価格は24,300円(税込)です(ファミ通.comの報道)。
狙いは、既存の季節商戦で客単価と話題性を同時に高めることです。研究所の見立てでは、これは催事場を使わない推し活施策として重要な型です。売り場が確保できない施設でも、既存商戦にコラボを重ねることは可能で、在庫リスクも予約制で抑えられます。
PARCO全国15店舗 × 映画『パプリカ』公開20周年
PARCOは、2026年1月2日から12日の「PARCOグランバザール」に合わせ、映画『パプリカ』の公開20周年コラボを実施しました。コラボCM、バスタオル・マグカップ・アクリルキーホルダーなどのオリジナルグッズ販売、抽選会を展開しました。ポップアップストアは、札幌・渋谷・名古屋・心斎橋の4店舗で開催されました(PARCOプレスリリース)。
冬の大型セールという「もともと人が来る時期」に、新作ではなくレガシーIPを重ねています。研究所の見立てでは、これは新規客の獲得ではなく、既存来店客の滞在時間と単価を上げる設計です。
イオン × 鬼滅の刃「イオンに集え!全集中夏祭り」
イオンは2025年7月18日から、全国のイオン・イオンスタイル・イオンモールでグループ横断のキャンペーンを実施しました。規模は約5,600店舗・施設、グループ18社におよびます。SCRAP制作のオリジナル謎解きイベントをイオンモールと一部のイオンタウンで無料開催した点が特徴です(イオン株式会社プレスリリース)。
研究所の見立てでは、この企画の中核は無料の体験コンテンツです。グッズを買わないファンや予算のない子ども、付き添いの家族まで参加できるため、来店のハードルが下がります。同時に、「排除されない推し活」としてファンから評価されやすくなります。物販の売上だけを追うと、この効果は帳簿に現れません。
三井ショッピングパーク × 呪術廻戦5周年
三井ショッピングパークの「呪術師たちの特休任務」は、2026年9月29日から10月14日までを会期とする企画です。全国のららぽーと・ラゾーナ川崎プラザで、ポップアップストア、コラボアイテム、コラボフードを同時に展開する内容です(にじめんの記事)。
全国ネットワークを使った同時多発型で、イオンの事例と同じ型です。研究所の見立てでは、この型の価値は同日に話題が集中することにあります。実施日をずらせば個店の運営は楽になりますが、SNSでの話題が分散し、目立たなくなります。
西武渋谷店 × にじさんじ
VTuber領域では、ANYCOLORが運営する「にじさんじ」が百貨店の定番のコラボ相手になっています。2025年4月5日から5月11日には、「にじさんじ百貨店 2025 in Spring」を前後半の2期制で開催しました。会場では、グッズ販売のほか「にじさんじ×NEW ERA®」コラボアイテムの実物展示、フォトブース、パネル展示を行いました(ANYCOLORプレスリリース)。2025年7月17日から8月3日には、同店A館5階でユニット「ChroNoiR」の7周年ポップアップを実施しました。購入金額に応じたノベルティ配布、会場限定質問コーナー、等身大パネル展示を組み合わせています(ANYCOLORの発表)。
研究所は、「にじさんじ百貨店」がシリーズ企画として複数回開催されている点に注目しています。単発の誘致ではなく、定例イベントとして名前が付いています。ファンから見れば「次もある」という前提ができ、施設から見れば毎回ゼロから交渉しなくて済みます。
先行事例が作った型
こうした型は、この数年で急に生まれたものではありません。老舗百貨店の代表例が松屋銀座です。松屋銀座はイベントスクエアで、アニメ原画展・展覧会型イベントを継続的に開催してきました。日経クロストレンドが特集を組むほど、百貨店のアニメ戦略を代表する存在として扱われています。催事場を「物産展の場所」から「若年層獲得の場所」へ再定義した先行事例です。
大手では三越伊勢丹が、2021年時点でアニメ・マンガコンテンツとのコラボ事業を前年から倍増させる方針を示し、専用サイト新設や動画配信に投資していました(日本経済新聞)。アニメコラボを単発の催事から継続事業へ格上げした転換点でした。
成功パターンと注意すべきパターン
事例を並べると、施設の規模よりも「誰を、どこまで参加させるか」の設計が結果を左右していると分かります。
| 型 | 内容 | 該当事例 |
|---|---|---|
| 成功:全国ネットワークで同日展開 | 系列施設全体で同時に動かし、話題の総量とSNS拡散を最大化する | イオン「全集中夏祭り」(約5,600店舗)、三井ショッピングパーク×呪術廻戦5周年 |
| 成功:「初」「周年」を明確に掲げる | 通常のポップアップと差別化するフックを企画名に組み込む | 松坂屋上野店×SAKAMOTO DAYS FES(TVアニメ初の展覧会型)、PARCO×パプリカ(公開20周年) |
| 成功:無料の体験コンテンツを併設する | 購買前に参加できる企画で来店ハードルを下げ、投稿の起点をつくる | イオンモール×鬼滅の刃の謎解き(SCRAP制作・参加無料) |
| 成功:既存商戦に重ねる | 催事場を確保できなくても、おせちやセールにコラボを掛け合わせる | 三越伊勢丹×アイドルマスターのコラボおせち |
| 成功:シリーズ名を付けて定例化する | 「◯◯百貨店」のように企画名を固定し、次回への期待を残す | 西武渋谷店「にじさんじ百貨店」 |
| 注意:成果非開示が次年度の予算化を難しくする | 来場者数・売上が公表されず、社内説明がSNSの話題量に依存しやすい | ポップアップ企画全般 |
| 注意:都市部偏重が地方ファンの参加機会を狭める | 主要施設に開催が集中し、遠方のファンほど参加しにくくなる | 巡回・全国展開のない単店開催全般 |
企画を通し、回すための実務手順
これらの型を実務の順番に置き換えると、次の7段階になります。
- IP側の周年・新作カレンダーを1年前から追う:「初開催」「◯周年」は先に押さえた側が使えます。催事場の枠取りも数か月から半年前が目安です。
- 本部プログラムか個店誘致かを最初に切り分ける:全国同時展開はグループ本部とIPホルダーの包括契約で成立します。個店担当者は、本部プログラムへの参加申請の手順を先に確認します。
- 巡回を前提に会場スケジュールを組む:東京・大阪・福岡と回す展覧会型は、各会場の催事日程調整に長いリードタイムが必要です。
- 物販だけで組まない:謎解き・スタンプラリー・フォトスポット・展示など、無料または低額で参加できる要素を1つ以上入れます。外部の体験制作会社との協業も選択肢です。
- 限定グッズの購入上限と事後通販を先に決める:会期後の通販を用意しておくと、遠方のファンと購入できなかった人の受け皿になります。ランダムグッズを扱う場合は、交換や選択ができる仕組みも設計します。
- KPIを複数軸で置く:来場者数だけでなく、グッズ完売率・客単価・館内他店舗への回遊・SNS言及数・新規会員登録数も指標にします。公表しない場合も、数字は社内に残します。
- 会期後に什器・在庫・データの行き先を決める:巡回するのか、事後通販に回すのか、什器は再利用するのか。ここを決めていないと会期終了後に負荷が集中します。
企画前のチェックリストです。
- IPの周年・新作スケジュールと催事日程を突き合わせた
- 本部包括契約か個店誘致かを確認した
- 「初」「周年」など差別化のフックを言語化した
- 無料または低額で参加できる体験を用意した
- 購入上限・事後通販・再販方針を決めた
- 地方在住ファンの参加導線(巡回・通販・オンライン)がある
- 来場者数以外のKPIを事前に定義した
- 会期後の什器・在庫・振り返りの担当を決めた
より広い企画設計の考え方は推し活イベントの企画方法で、飲食を伴う企画はコラボカフェの企画方法と成功事例で解説しています。
推し活未来研究所メモ:売り場ではなく「行く理由」を売っている
百貨店と商業施設がポップアップに期待しているのは、坪あたりの売上ではありません。その日その施設に行く理由です。オンラインで買えるものが増えるほど、実店舗の価値は「そこに行かないと成立しない体験」に移っていきます。展覧会型イベントや無料の謎解き、等身大パネル、フォトスポットは、どれも通販では再現できません。
同時に、この分野には成果がほとんど公表されないという共通の弱点があります。来場者数や売上高を明かしている施設は、ほとんどありません。公表しない判断は経営上あり得ますが、社内にも数字が残っていなければ、企画は担当者の熱意に依存した属人的なものになります。
もうひとつ、地方在住のファンをどう扱うかという課題もあります。都市部の主要施設に開催が集中するのは、施設側から見れば合理的です。だからこそ、巡回・事後通販・オンライン企画といった参加方法を最初から設計に含めておくことが、長く支持される条件になると研究所は見ています。ポップアップは、一時的に売上を上げる手段にとどまらず、施設とファンの関係を毎年更新する仕組みとして設計できるはずです。
関連記事:推し活マーケティングとは/ファンマーケティングとは/コラボカフェの企画方法と成功事例/推し活の市場規模【2026年版】
よくある質問
百貨店はなぜ催事場をアニメ・キャラクター企画に使うのですか?
従来の顧客層と重ならない若年層を呼び込めるためです。三越伊勢丹は2021年時点でアニメコラボを単発催事から継続事業へ格上げする方針を示しています。
ポップアップストアと展覧会型イベントの違いは何ですか?
ポップアップは物販が中心で回転が速く、展覧会型は原画や立体展示を中心に滞在時間を長く取ります。松坂屋上野店のSAKAMOTO DAYS FESは後者です。
個店の担当者でもIPコラボを誘致できますか?
全国同時展開型はグループ本部とIPホルダーの包括契約で成立するのが一般的です。個店では、本部プログラムへの参加申請が現実的な進め方になります。
物販以外に用意すべきものはありますか?
謎解きやスタンプラリーなど無料で参加できる体験企画です。買わないファンも参加できるため来店のハードルが下がり、SNS投稿のきっかけにもなります。
推し活人口はどれくらいですか?
CDGの第2回推し活実態アンケートでは推し活人口1,384万人、市場規模約3兆5千億円、年間支出額は平均約25万5,035円と報告されています。



