ペンライトの進化史|サイリウムから色が変わる公式ペンラまで、現場ルールも解説
ライブでは、観客が操作するペンライトに加え、会場側が一斉に色を変える無線制御の製品も使われています。ペンライトは応援グッズであると同時に、客席全体を使った照明演出の一部にもなっています。

光源は懐中電灯から化学発光、電池式のLEDへと変わり、無線による制御も加わりました。ペンライトの歴史を、技術と会場ルールの両面から確認します。
先に答え:光源が3回入れ替わり、そのたびに「誰が色を決めるか」が動いた
ペンライトの進化は、明るさの競争ではありません。電球 → 化学発光 → LED → 無線制御と光源が替わるたびに、色を決める主体が移ってきました。最初は持ってきた人が、次は買った人が、いまは会場の送信機が色を決めます。現場で「27cmまで」といったルールが要るようになったのも、この変化の副産物です。
光の系譜:宇宙用の技術が、釣り場を経てライブに来た
化学発光式のライトは、1960年代に米国のアポロ計画に関連して発明されたとされています。火も電気も使わずに、宇宙空間で安全に使える光源として作られたといいます。日本にこの技術を持ち込んだ老舗が、1979年に福岡県で創業した株式会社ルミカです。同社は夜釣り用の化学発光製品で培ったアンプル技術を、のちにコンサート用グッズへ展開しました(Jタウンネットによるルミカ取材記事)。
つまり、ライブ会場で折られてきたあの棒は、宇宙開発で生まれた技術が釣り具を経てライブに持ち込まれたものです。「サイリューム」という呼び名も、世界初のケミカルライトの商標に由来しています。
一方、日本のコンサートで観客が光る道具を持ち始めた最初のきっかけについては、次のような逸話が広く語られています。1970年代半ばに、歌手がラジオで懐中電灯の持参を呼びかけたというものです。ただしこれは業界で語り継がれてきた逸話で、日本での起点は言い伝えの域を出ません。缶バッジの日本流入時期と同じく、この分野の年表は業界の口伝で成り立っている部分が少なくありません。
| 時期 | 出来事 | 確度 |
|---|---|---|
| 1960年代 | アポロ計画に関連して化学発光ライトが発明される | メディア取材記事による |
| 1970年代半ば | 日本のコンサートで観客が懐中電灯を持参したという逸話 | 業界の言い伝え |
| 1979年 | ルミカが福岡県で創業、化学発光技術を国内に導入 | メディア取材記事による |
| 1980年代 | 色セロハン付きの豆電球やケミカルライトが応援に定着 | 業者の説明による |
| 2000年代 | メンバーカラーの概念が広がり、色を選ぶ文化が定着 | 現場で共有された通説 |
| 2011年12月 | Coldplayの公演で無線制御リストバンドを来場者に配布 | 技術系メディアによる |
| 2011年6月23日 | ルイファン・ジャパン設立 | 企業公式サイトによる |
| 2020年代 | 無線制御・音響連動型が一般公演にも広がる | 各社の製品展開 |
製品の進化で大きいのは、一本で複数の色に切り替えられるようになった点です。ファンは推すメンバーや曲に合わせて色を選ぶようになり、持ち物の選び方も変わりました。
中で何が起きているのか:3つの世代の仕組み
光源が入れ替わるたびに、棒の中身もまるごと別物になってきました。
世代1:ケミカルライト(使い捨て)
内部に2種類の薬液が入っており、仕切っているガラス管を折って混ぜると化学発光します。電池も電源も要らず、そのぶん光量の調整も色替えもできません。薬液を内包する構造上、破損すると中身が漏れるリスクがあります。
世代2:LED公式ペンライト(繰り返し使用)
グリップの中に電池とLED、色を切り替えるボタン回路が入っています。基本は、赤・緑・青のLEDを組み合わせて多色を表現する方式です。メーカーはモデルごとに、色数を増やしたり発色を調整したりする改良を続けています。電池は単3・単4・ボタン電池・充電式と機種によって異なるため、買い替え時は「前の電池が使えない」ことがよくあります。
世代3:無線制御ペンライト
無線制御ペンライトは、技術的にいちばん面白い世代です。ソニーの「FreFlow」は、会場側からペンライトに920MHz帯の電波を送って光を制御する方式で知られます(現在はアプリとBluetoothを使う形式です)。信号は照明業界標準の通信プロトコルであるDMXで記述され、ステージ袖や照明卓の近くに置かれた送信機から送られる仕組みです。信号を受信したペンライトでは内部のマイクロコントローラーがRGB LEDを制御し、数万本がタイムラグなく同じ色に変わります(ITmedia PC USER)。ドーム級の会場では死角を減らすため、アンテナを複数に分散して設置します。
同じ「一斉に光らせる」発想の先行例が、英国発のリストバンド型デバイスのXylobandsです。XylobandsはLEDと無線受信機を内蔵し、ソフトウェアから発光を制御します。2011年12月のColdplay公演では、O2アリーナの来場者に配布されたと報じられています(Silicon Labs)。日本の無線制御ペンライトは、この発想をメンバーカラーを振り分ける国内の文化に結びつけたものと位置づけられます。
無線に加え、音を解析してリズムに合わせて自動で光る音響連動型も実用化されています(エヴィクサー)。送信機の設置が難しい小規模会場でも一斉演出を実現する狙いがあります。
色を誰が決めるのか、という文化の話
技術の進化と並行して、現場のふるまいも変わってきました。
推しカラー制のグループでは、担当色に光らせるのが基本作法です。2本持ちして左右で色を分ける人もいれば、定番曲やアンコールで白に統一する慣習もあります。これらは誰かが決めたルールではなく、現場で少しずつ定着した作法です。
無線制御が普及しても、あえて人力で色を合わせる現場が残っています。スタッフや周囲の声かけで色を揃えることにこだわる例が取材で紹介されています(前掲ITmedia)。自動で変わる色は演出側が作った統一美であり、手で合わせた色はファンが選んだ結果です。同じ「全員が同じ色になる瞬間」でも、意味がまったく違います。
海外との対比もはっきりしています。K-POPの公式ライトスティックは、1グループ1デザインの専用グッズとして作られます。これに対し日本では、同じ機種を複数のグループで使い回し、色だけを変える運用が主流です。日本は機種を共有して色で分け、韓国は機種そのものを分けています。どちらが正しいかではなく、グッズの経済構造の違いです。
振り方では、明るすぎる設定や頭より高く上げること、2本持ちで大きく振ることが避けられています。後方や隣の人の視界と安全を妨げるとされるためです。肩幅の内側で振るのが目安です。オタ芸のように振り方自体が文化になっている領域もありますが、その可否も現場ごとに異なります。
参戦前チェックリスト
作法が現場ごとに違うのと同じく、持ち込みの規定も公演ごとに変わります。出発前に押さえておきたい項目は次のとおりです。
- 公演ごとの持ち込み規定を公式で確認する:長さ・本数・光量・点滅の可否を確かめます。SNSの又聞きより、主催者の案内が確実です
- 電池の種類と本数を買う前に確認する:電池は機種によって違います。買い替えたら手持ちの予備が使えなかったというのは、よくある失敗です
- 予備電池を必ず持つ:物販列から本編まで、点灯時間は想像より長くなります
- メンバーカラーを事前に調べる:公式発表と現場の慣習がずれている場合もあるため、両方見ておく
- 遠征なら航空会社の規定を見る:JALはケミカルライト・サイリュームの機内持ち込みと預け入れについてFAQを用意しています。遠征前に、必ず一次ページで確認します
- 無線制御対応かどうかを把握する:対応機でなければ自動演出には参加できません
- 予備の1本を持つか決める:会場限定モデルは売り切れます。会場限定の販売状況は、事前告知で確認します
2025年秋から2026年秋にかけての動き
ペンライトをめぐる直近の動きは、次の4つです。
- 2025年12月、ITmediaが無線制御ペンライトを特集。記事は赤外線方式と920MHz帯の無線方式という技術の中身を解説し、人力で色を合わせるこだわりが残っている現状も伝えました(ITmedia PC USER)。技術系メディアがファン文化の側面まで扱ったことは、この分野が成熟してきた表れです
- 2026年9月2日、ホロライブプロダクションが参加ルールを公式に告知。告知には、コンサートライトについて27cmを超えるものの持ち込みを禁止する旨が明記されています。長さの上限を公式文書で数値にした点が、実務的には重要です。基準は主催者ごとに異なります
- 2026年9月2日、TOHO animation STORE ONLINEで自動制御ペンライトの販売が発表。この商品は音に合わせて点滅し、光の色が全14色に変化します。会場内すべての光が同時に変わる演出にも対応しています。作品公式ストアが自動制御対応機を通常商品として並べ始めたことは、この機能が特別枠でなくなりつつある兆しです
- 供給側の規模感。ルイファン・ジャパンは年間200万個を超える製品を供給していると公式サイトで説明しています。ただしこれは1社分の数字です。コンサート用ペンライトの業界全体の出荷数や市場規模を示す統計は、いまのところありません。市場調査会社が公表しているペンライト市場のレポートは医療用・工業用を含むもので、応援用とは別カテゴリです
推し活未来研究所メモ:色を決める権利は、どこへ移ったのか
ペンライトの歴史を光源の話として読むと、化学から電気への技術史になります。しかし研究所は、色を決める権利の移動として読むほうが面白いと考えています。懐中電灯の時代には色の違いはなく、持ってきたかどうかだけが問われました。サイリウムの時代には、色は買った本数で決まりました。LEDの時代になると、ボタンで色を自由に選べるようになります。そして無線制御の時代には、演出席が色を決めています。
自由になったはずの色が、いちばん高度な技術のもとで、いちばん選べなくなっています。これは退化ではありません。全員が同じ色になる瞬間の美しさは、個々の選択の総和では絶対に作れないからです。ただし、その美しさは演出側が用意した感動であって、推しカラーを選んで振る行為とは別物です。人力で色を合わせる現場が残っているのは、推しカラーを自分で選んで振ることを手放したくない人がいるからでしょう。
企画する側への示唆は2つあります。ひとつは、無線制御を入れるなら手動で色を選べる時間帯も残すことです。全編を自動制御にすると、ファンが自分の推しを表明する機会がなくなります。もうひとつは、持ち込み規定を数値で先に出すことです。ホロライブが27cmという数字を公式文書に書いたのは、現場での没収や口論を減らす実務的な判断です。マナーが曖昧だと、真面目な人ほど不安になります。光をどう扱うかというルールは、光そのものと同じくらい、体験の質を左右します。
ライブ演出・応援グッズの設計に関するご相談は株式会社KAZAORIまで。推され度チェック(無料診断)もご利用ください。
関連記事:ペンライトとは(用語辞典)/推しカラーとは
よくある質問
サイリウムとペンライトは何が違うのですか?
サイリウムは薬液を混ぜて光らせる使い捨ての化学発光式、ペンライトは電池とLEDで光る繰り返し使える電気式を指すのが一般的です。ただし現場では両方をまとめてペンライトと呼ぶことも多くあります。
化学発光のライトはどこで生まれたのですか?
1960年代、米国のアポロ計画に関連して、火も電気も使わず安全に使える光源として発明されたのが起源とされています。日本では釣具用の製品から普及していきました。
会場で色が勝手に変わるのはなぜですか?
無線制御に対応したペンライトが会場の送信機から信号を受け取り、内部のLEDを自動で切り替えているためです。信号は、照明卓から照明用のDMX信号として送られます。
ペンライトの長さに制限はありますか?
あります。ホロライブプロダクションは2026年9月2日付で27cmを超えるコンサートライトの持ち込みを禁止すると案内しました。基準は主催者ごとに異なるため公演ごとの案内を確認してください。
飛行機でペンライトやサイリウムは運べますか?
航空会社ごとに条件が異なります。JALは、ケミカルライト・サイリュームの持ち込みと預け入れについてFAQで案内しています。遠征前に、利用する航空会社の一次情報を確認するのが確実です。



