マフラータオルはなぜライブとスタジアムの両方にあるのか|掲げる文化の起源
タオルは、スポーツ観戦やライブで使われる代表的な応援グッズです。掲げる、回す、身につけるなど、競技や公演によって使い方が異なります。

幅20cm、長さ1メートルほどの細長い布。なぜこの形が、まったく違う場所で同時に応援の道具になったのか。応援タオルの歴史と、「頭の上に掲げる」「手に持って振る・回す」「首に巻く」という3つのアクションを紹介します。
先に答え:防寒具から始まったものと、汗拭きから始まったものが、同じ形に落ち着いた
答えは一つではありません。サッカーのマフラーは「寒さをしのぐ布」から、ライブのタオルは「汗を拭く布」から始まりました。出発点の違う2つが、別々の経路をたどって同じ寸法に落ち着いています。
同じ形に落ち着いた理由は、形の便利さにあります。頭上に掲げれば横断幕になり、大きく振ればフラッグになり、暑ければ汗を拭け、寒ければ首に巻ける。この四役をこなせる寸法が、幅20cm前後・長さ1メートル前後でした。用途が先にあって形が決まったのではなく、形の万能さが用途を呼び寄せたわけです。
年表:グラニー・スカーフからピカチュウのタオルまで
二つの経路がどこで交わったのかは、時系列に並べるとはっきりします。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 20世紀初頭 | イングランドのファンが防寒用にウールのマフラーを着用。家族の手編みが中心 |
| 1934年 | アーセナル対クリスタルパレスのFA杯戦映像に、カラースカーフの姿が記録される |
| 1963年 | リヴァプールのファンが「You’ll Never Walk Alone」を応援歌として歌い始める。マフラーを掲げて合唱する習慣へ |
| 1970年代 | 英国全土でスカーフ着用が試合日の当たり前の光景に |
| 1978年 | スカーフの商業生産会社が設立され、量産体制へ |
| 1980年代 | ジャカード織機の導入でエンブレムを織り込んだデザインが可能に |
| 1993年 | Jリーグ開幕。ウール製マフラーをタオル生地に置き換えた「タオルマフラー」が広がる |
| 2000年前後 | ライブ会場でのタオル回しが一部で浸透(起源は諸説あり) |
| 2026年 | Jリーグ公式ストアでピカチュウ、アイドリッシュセブンとのコラボタオルが展開 |
英国:家族が編んだ布が「部族の印」になるまで
最初のサッカーマフラーは商品ではありませんでした。20世紀初頭のイングランドのスタジアムは屋根のない立ち見が主流で、真冬の観戦は耐久競技でした。そこで妻や母や祖母が、クラブカラー2色の毛糸でマフラーを編みました。エンブレムは入っておらず、グラニー・スカーフ(おばあちゃんのマフラー)と呼ばれていました(Ruffneck Scarvesの解説)。
カラースカーフが確認できる最古級の映像は1934年、アーセナル対クリスタルパレスのFA杯戦を撮影したニュース映像とされます。FIFAのフットボール史家ガイ・オリバーによれば、スカーフ着用が英国全土で当たり前の光景になったのは1970年代のことです。
英国のサッカークラブ、リヴァプールFCの本拠地スタジアム「アンフィールド」には、熱心なファンが集まる「コップ(Kop)」と呼ばれる観客席があります(リヴァプールFC公式の解説)。
この観客席で広がった応援の節目となったのが1963年です。ジェリー・アンド・ザ・ペースメイカーズの「You’ll Never Walk Alone」がリリースされると、コップに集まるファンはすぐにこの曲を応援歌として歌い始めました。数年のうちに、試合前に赤白のマフラーを頭上に掲げて合唱するスタイルが定着します(リヴァプール観光公式サイト)。この応援スタイルはその後、世界中のクラブへと広がっていきました。
スカーフの商業生産の先駆けとなったキシャン・ヴィダーニは、「スカーフはその部族の一員であることを示すために使われる」と語っています。防寒具が所属証明に変わった瞬間が、掲げる文化の出発点です。
日本:ウールがタオルに置き換わった
英国で生まれた掲げる文化は、日本には素材を替えて入ってきました。スタジアムで主流になったのは、ウールのマフラーではなくタオル生地の「タオルマフラー」でした。1993年のJリーグ開幕以降、人気の高まりとともに急速に広がったとされます(タオルショップジェイピーの解説)。
置き換えが起きた背景には、日本のサッカーシーズンが夏を含むことがあると考えられます。真夏のスタジアムでウールのマフラーを首に巻くのは現実的ではありません。しかしタオルなら、掲げる役目を果たしたあとそのまま汗を拭けます。気候に合わせた素材変更が、結果として英国版より多機能なグッズを生みました。
ただし、「タオルマフラー」という商品形態を最初に企画したクラブやメーカーには、定説がありません。プロ野球の応援タオルについても、日本で最初にタオル応援を始めたのはロッテだとする説が知られている一方、巨人のオレンジタオルをめぐる指摘が2013年に報じられたこともあります(NEWSポストセブン)。発祥をめぐる話は、いまも複数の説が並んだままです。
米国NFLのピッツバーグ・スティーラーズが1970年代に始めたとされる「Terrible Towel」は、掲げるのではなく振る動作が中心で、別系統の文化です。
産地:応援タオルは今治で織られている
意外に語られませんが、応援タオル・マフラータオルの多くは愛媛県今治市で製造されています。今治は120年の歴史を持つ国内最大のタオル産地で、高縄山系・石鎚山系に由来する軟水が晒しや染めに適していること、糸染めから仕上げまでの一貫生産体制を持つ工場が多いことが特徴です(丸山タオルの解説)。
クラブのエンブレムやアーティストのロゴを、にじませずに小ロットで織る/捺染する——この難易度の高い注文に応えられる産地があったことが、日本で応援タオルが定番化した産業的な前提でした。文化の話に見えて、半分は製造の話です。
タオルの3つのアクション
タオルは応援する場所や場面に合わせて、使い方が変わります。ここでは「掲げる」「振る・回す」「首に巻く」の3つを見てみましょう。
| アクション | よく使う場所 | 使い方と特徴 |
|---|---|---|
| 頭の上に掲げる | サッカー・野球のスタンド | 英国でマフラーを掲げたのが原型。文字を見せ、隣の人と同じ絵を作る |
| 手に持って振る・回す | ライブ、NFLのスタジアム | サビや得点の瞬間に会場全体を動かす。日本のタオル回しは起源に諸説あり |
| 首に巻く | 音楽フェス、夏の野外 | 荷物を減らし、両手を空けるため。ファッションとしても使われる |
ライブの「タオル回し」は、2000年前後には一部で浸透していたとされ、レゲエ系アーティストの現場を通じて全国区の定番になったという見方があります。ただし始まった年や場所には諸説があり、日本独自の発展なのか海外の影響なのかも定まっていません。
タオル回しとタオル掲げは、ジャンルによって使い分けられます。ロックバンドの現場では首掛けと掲げが、レゲエやヒップホップ系では回しが主流という傾向が語られてきました。同じグッズなのに、界隈ごとに正しい持ち方が違う——生写真やペンライトにはない、タオル特有のややこしさです。現場の作法は参戦服とはの考え方とも重なります。
自己開示としてのタオル
なぜ人はタオルを掲げるのか。阪神タイガースのファンを対象にした調査では、女性約3,000人のうち約9割が「推しタオル」を持っているという結果が紹介されています。タオルを掲げることは、見知らぬ隣人に自分の推し選手を開示する行為であり、そこに返報性の原理が働いて連帯感が生まれる、という心理学的な説明が添えられています(集英社オンライン)。
阪神では、投手・石井大智の「勝ちマッスル」、デュプランティエの「ぼちぼちいこか」など、選手の決め台詞をあしらったタオルが並びます。タオルは選手の名前を運ぶだけでなく、その選手のキャラクターまで運ぶ媒体になりました。推しカラーグッズと同じ働きを、より安く、より大きな面積で果たしているとも言えます。
実践:選び方と手入れ
掲げるのか、回すのか、巻くのか。どれを主にするかを決めておくと、選ぶ基準もはっきりします。
選ぶとき
- スタジアムで掲げるなら、大判・厚手で文字が大きいもの。遠くの席からでも読めるかを基準に
- ライブで回す・巻くなら、軽くて乾きやすい素材。厚手は回すと重く、腕が持ちません
- 夏フェスなら速乾性を最優先。UVカット機能付きの製品もあります
- 価格帯はJリーグクラブの公式タオルマフラーでおおむね2,000〜2,500円前後
使うとき・しまうとき
- 激しく動く現場では、ワンループ巻きにして端をTシャツに入れると落としません
- 汗と日焼け止めがつくので、当日中に洗う。放置すると黄ばみます
- 保存用と実戦用を分ける。記念のコラボ品まで毎回持ち出す必要はありません
- 色移りを防ぐため、濃色のタオルは初回だけ単独洗いを
タオルの強みは、アクスタや生写真と違って日常使いへの心理的ハードルが低いことです。洗って使える実用品なので、買い足しにも罪悪感が伴いにくいのです。増えたときの整理は推しグッズの収納アイデアを参考にしてください。
この1年の動き
- 2026年8月7日から2027年2月28日まで、Jリーグ公式オンラインストアで「Jリーグ×ピカチュウ タオルマフラー」が受注生産で販売(2,500円)。スポーツと人気IPのコラボが、Tシャツでもキーホルダーでもなくタオルマフラーというフォーマットで行われている点が象徴的です(Jリーグ公式オンラインストア)
- 2026年2月には「アイドリッシュセブン×Jリーグ」のマフラータオルが登場。2.5次元コンテンツとスポーツグッズの越境が続いています
- 新潟・鳥栖など複数クラブが2026/27シーズン向けの新デザインを順次発売。フリンジ入り、選手名入りなどバリエーションが年々細かくなっています(Jリーグ公式サイト)
- 阪神の「推しタオル」文化がメディアで特集された年でもありました。選手ごとの決め台詞タオルという発想が広く紹介されています
制度変更はなく、既存の文化がIPコラボとデザイン細分化で膨らんだ1年でした。
推し活未来研究所メモ:タオルを掲げて、応援の輪に加わる
研究所がタオルの魅力だと考えるのは、同じタイミングで掲げるだけで、周りの人と一緒に応援できることです。選手の名前やチームの色が入ったタオルを広げると、自分が誰を応援しているのかが伝わります。初めて会場を訪れた人にとっても、周りと動きを合わせることが、応援に加わるきっかけになるのではないでしょうか。
企業やクラブがタオルを企画するときも、デザインだけでなく、いつ、どの曲に合わせて掲げるかまで考えると、会場での楽しみ方が伝わりやすくなります。リヴァプールのファンが歌に合わせてマフラーを掲げるように、グッズと応援の動きを結びつける視点が、タオルを使う楽しさを広げると考えています。
もうひとつ、産地の話も忘れたくありません。応援タオルの品質は今治という産地に支えられており、コラボの数が増えるほど、産地の技術が試されます。推し活グッズの持続可能性は、デザインの話であると同時に、作っている場所の話でもある——タオルはそれをいちばん分かりやすく示すグッズです。市場全体の規模感は推し活の市場規模【2026年版】にまとめています。
よくある質問
マフラータオルとフェイスタオルの違いは何ですか?
幅約20cm・長さ100〜110cm程度の細長い形状が一般的で、フェイスタオルより長く作られています。頭上に掲げたときに文字が読め、首に巻いても余る長さが応援用として選ばれた理由です。
サッカーのマフラーはなぜ生まれたのですか?
20世紀初頭のイングランドで、屋根のない立ち見スタンドの寒さをしのぐ防寒具として使われたのが始まりとされています。当初は家族が手編みしたクラブカラーのマフラーで、エンブレムはありませんでした。
ライブの「タオル回し」はいつから始まったのですか?
2000年前後には一部で浸透していたとされ、レゲエ系アーティストの現場を通じて全国的な定番になったという見方が有力です。ただし始まりを記録した資料は残っておらず、諸説あります。
応援タオルはどこで作られていますか?
多くが愛媛県今治市の産地で製造されています。今治は120年の歴史を持つ国内最大のタオル産地で、晒しや染めに適した軟水と、糸染めから仕上げまでの一貫生産体制を持つ工場が集まっています。
掲げる用と巻く用で選び方は変わりますか?
変わります。スタジアムで掲げるなら文字が大きく読みやすい大判・厚手、ライブで回したり巻いたりするなら軽くて乾きやすい素材、夏フェスなら速乾性を優先するのが基本です。


