『「好き」を言語化する技術』書評|「やばい」の先にある、推し語りの筋トレ本
「推しの素晴らしさを語りたいのに『やばい!』しかでてこない」——この副題に心当たりがある人は、たぶん全推し活人口の9割です。

書評家・三宅香帆さんの『「好き」を言語化する技術』(ディスカヴァー携書・2024年刊)は、その「やばい」の先へ進むための、いわば推し語りの筋トレ本。23万部を突破し、オリコン上半期新書ランキング1位にもなった話題作です。
この本について
著者の三宅香帆さんは、自身も宝塚やアイドルを愛する書評家。「好き」を言葉にする工程を、SNS投稿・おしゃべり・ファンレター・長文レビューと場面別に分解し、例文つきで「自分だけの言葉」の作り方を教えてくれます。
核になるメッセージはシンプルです。推しを語ることは、自分の人生を語ること。借り物の「エモい」「神」ではなく、自分の体験とつないだ言葉だけが、他人の心を動かします。
実用書としての作りも親切で、「うまく書こうとしなくていい」「ありきたりな言葉からいったん離れる」という心構えから、具体的な手順へと段階的に進みます。文章術の本にありがちな「読んだけど書けない」で終わりにくいのは、著者自身の推し語りが例として豊富に載っていて、読みながらそのまま真似できるからです。
印象的な論点:感想は「先に」メモする
本書の技術のなかで、いちばん今日から効くのは「他人の感想を見る前に、自分の感想をメモする」という習慣です。
ライブや映画のあと、私たちはつい先にSNSを開いてしまいます。そして流れてくる巧い感想を読むうちに、自分の中にあったはずの言葉が、他人の言葉に上書きされていく。数日後に残っているのは「エモかった」という要約だけ——心当たりのある人は多いはずです。
処方箋はシンプルで、順番を変えるだけ。まず自分のメモ、それからSNS。たったこれだけで、感想は「借り物」から「自分だけの記録」に変わります。道具も才能もいらない、この本らしい技術です。
ビジネス視点で読む
この本を研究所の目で読んで最初に思うのは、「これはファン向けの本の顔をした、マーケティングの本だ」ということです。
私たちはOSHI-MAP®の7軸の最後に「プロモーター(ファンの口コミで広がっているか)」を置いています。企業がどれだけ広告を打っても、ファンの「自分の言葉」の一投稿には敵わない。つまりファンの言語化能力は、ファンダム経済圏の通貨なんです。
三宅さんがこの本でやっているのは、その通貨の発行方法を全員に配ること。「やばい」しか言えないファンが「自分の言葉」を持った瞬間、その人は消費者から布教者に変わります。企業側から見れば、これほど重要な変化はありません。ファンの言語化を助ける仕掛け——感想を書きたくなる余白、引用したくなる言葉——を用意することは、広告費より効くファンマーケティングだと、この本が証明していると思います。
推し活未来研究所メモ
- 言語化は愛の総量ではなく技術 — 語れないのは愛が足りないからではない。技術なら練習できる
- 「わかる」と言われたら勝ち — 良い推し語りは共感の入口。布教の成功率は言葉の解像度に比例する
- 企業は「ファンの言葉」を設計できる — 感想ハッシュタグ、引用しやすいコピー、語りたくなる物語。ファンの言語化支援は施策になる
どんな人に刺さるか
- 「やばい」から先に進みたいファン — 布教の成功率を上げたい人、感想ブログやレポを書いてみたい人にはど真ん中の一冊です
- 推しの記憶を残したい人 — 言語化は布教のためだけではありません。あの現場で自分が何を感じたかを未来に残す、「好き」のアーカイブ術でもあります
- ファンの口コミを増やしたい企業担当者 — ファンが語りやすい仕掛けを考える立場の人には、実質的な教科書になります
書籍情報
| 書名 | 『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』 |
| 著者 | 三宅香帆 |
| 出版社 | ディスカヴァー・トゥエンティワン(ディスカヴァー携書) |
| 刊行 | 2024年7月 |
この本を読んだ人におすすめの3冊
| 書名 | なぜおすすめか |
|---|---|
| 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆) | 同著者の大ヒット作。「好き」に時間を割けない社会構造の話は、推し活疲れの問題と地続き |
| 『読みたいことを、書けばいい。』(田中泰延) | 「自分が読みたいものを書く」という原則は、推し語りにもそのまま効く文章術の定番 |
| 『イン・ザ・メガチャーチ』(朝井リョウ) | 言語化されたファンの熱量が「経済圏」になったとき何が起きるか。次はその構造を物語で(書評はこちら) |
まとめ
布教がうまくなりたいファンにも、ファンの口コミを増やしたい企業にも効く一冊。布教(用語辞典)や推し活マーケティングとはと合わせてどうぞ。
推し活×本棚では、推し活・ファン文化の本を1冊ずつ深掘りしています。
よくある質問
『「好き」を言語化する技術』はどんな本ですか?
書評家・三宅香帆さんによる、推しの魅力を自分の言葉で語るための実用書(ディスカヴァー携書・2024年刊)。23万部を突破し、オリコン上半期BOOKランキング新書部門1位を獲得したベストセラーです。
文章を書くのが苦手でも実践できますか?
できます。本書の技術は長文レビューだけでなく、SNSの短い投稿・おしゃべり・ファンレターと場面別に分解されています。まずは「他人の感想を見る前に自分の感想をメモする」習慣ひとつからでも効果があります。
企業のマーケティング担当者にも役立ちますか?
役立ちます。ファンが自分の言葉で語れるほど口コミは強くなるため、感想を書きたくなる余白や引用したくなる言葉をどう用意するかを考えるヒントになります。推し活マーケティングとはと併読すると視点が立体的になります。


