推し活×文化

平成レトロは​なぜ​「2026年の​推し活」​と​して​蘇ったのか

ルーズソックス、たまごっち、プリクラ、シール帳、CDのジャケット。昔は身近だったものを、いま初めて知って好きになる人がいます。平成レトロのおもしろさは、同じ物を見ても「懐かしい」と感じる人と「初めて見た」と感じる人がいることです。

平成レトロのアイテムを手に取り、楽しむ若い世代を描いた記事のイメージ

推し活でも、出会った時期と作品の発売年は一致しません。配信で昔のアニメを見て、復刻グッズを選び、好きなキャラクターを連れて出かける。平成の文化を現在の生活に取り入れる行動には、いまの推し活と重なるところがあります。

この記事の背景:推し活未来研究所のPodcast・YouTube第52回「平成レトロと推し活」をもとに、製品の歴史と復刻の事例を加えました。商品の発売情報は当時の記録として扱い、購入やイベント参加の際は各公式サイトで最新の案内をご確認ください。

平成レトロとY2Kは、どこが重なるのか

平成は1989年から2019年まで続きました。ただし、平成レトロという言葉で思い浮かべる物や時期は人によって違います。1990年代のプリクラや携帯型ゲームを挙げる人もいれば、2000年代のシール帳や携帯電話のデコレーションを思い出す人もいるでしょう。

Y2Kは2000年前後のファッションやデザインを指す場面で使われる言葉です。平成レトロと重なりますが、平成全体を一つの服装や色使いで説明することはできません。さらに「平成女児」という呼び方では、幼い頃に親しんだ玩具や文具に注目が集まります。誰の、いつ頃の記憶を扱うのかを分けると、違いが見えやすくなります。

SHIBUYA109 lab.のレトロカルチャー変遷レポート は、2022年の欧米の2000年代風ファッション、2023年の日本の原宿文化や玩具、2024年のサブカルチャーの影響を区別しています。これらは同研究所が観測した若者のトレンドであり、すべての世代の好みを示す調査ではありません。

呼び方注目されやすい物・体験記事や企画で区別したいこと
平成レトロ平成期の玩具、写真、音楽、服装など平成のどの時期を扱うか
Y2K2000年前後を思わせるファッションやデザイン日本の流行か、海外の流行か
平成女児の文化シール、文具、育成玩具、キャラクター雑貨など子ども時代の体験と、現在の商品との違い

この表は楽しみ方を分けるための整理です。年代や性別で参加者を限定するものではありません。昔を知っていることも、当時の商品を持っていることも、楽しむための条件にはならないはずです。

たまごっち:同じ「お世話」でも、製品ごとに遊び方が違う

バンダイは1996年11月23日に初代たまごっちを発売しました。小さな画面の中のキャラクターに食事を与え、掃除をし、成長を見守る育成玩具です。持ち主が世話をする時間まで遊びに含まれるところが、映像を眺めるだけの体験とは違います。

初代たまごっちの意匠図面。正面と斜めからの形を示す資料
画像引用:バンダイ「たまごっち」30周年施策の発表/バンダイ。初代の意匠図面(意匠登録第993383号)。

上の資料では、卵形の本体に小さな画面と三つのボタンがまとまっています。バッグに付けて持ち歩ける形だから、遊ぶ時だけ取り出す道具ではなく、日中も気になる存在になりました。同社の30周年発表でも、当初の時計型の企画から、ボールチェーンで身につける形へ変わった経緯を紹介しています。

いま選ぶときには、「昔と同じたまごっち」と一括りにしないほうが分かりやすくなります。初代の体験に近づきたいのか、友人と通信したいのか、新しい育成を楽しみたいのか。見た目が似ていても、遊びの中心は同じではありません。

たとえば、2025年7月発売の「Tamagotchi Paradise」は、ダイヤルを回して観察する範囲を変える製品です。下の公式映像では、2026年に加わった「Orange Tropics / White Glacier」を紹介しています。これは1996年当時の映像ではなく、新しいシリーズの商品紹介です。

育成の結果を友人に見せたり、お気に入りの本体をバッグに付けたりする楽しさは、現在の推しグッズにも通じます。ただし、当時の持ち主が「推し活」と呼んでいたわけではありません。過去の遊びを現在の言葉で読み解くことと、当時使われていた言葉を伝えることは分けておきたいところです。

たまもりしーる:復刻されるのは、絵柄だけではない

シールの楽しみは、眺めることだけではありません。どこへ貼るかを考え、組み合わせを変え、友人に見せる。その手順まで含めて覚えている人も多いでしょう。

たまごっち公式の復刻案内 によると、「たまもりしーる」は2011年に発売が始まった商品です。2026年1月にはシールとシール帳が復刻されました。キャラクターにアイテムのシールを重ね、自分の好みにアレンジできる、貼ってはがせるシールです。

復刻版たまもりしーるのキャラクターとアイテムのシール
画像引用:たまごっち公式「たまもりしーるが令和に復刻」/©BANDAI。2026年の復刻版です。

公式画像でも、キャラクターだけでなく、組み合わせる小物が並んでいます。完成した絵柄のシールだけでなく、手元で組み合わせを考える楽しみも届けていることが分かります。昔の図柄を別の物に印刷するコラボとは、参加する人の動作が違います。

現在の推し活でも、トレカケースを飾る、推し色 の小物を選ぶ、アクスタ と背景を組み合わせて撮影する、といった工夫があります。すべてが昔の遊びから直接生まれたとまでは言えません。それでも、自分で少し手を加えて「自分の好きな形」にする楽しさは共通しています。

2026年の展開は「昔と同じ物を売る」だけではない

バンダイは2025年8月の発表 で、同年7月末までにたまごっちシリーズの国内外累計出荷数が1億個を超えたと公表しました。これはシリーズ全体の累計であり、2026年の国内販売数や、平成レトロ市場全体の規模を示す数字ではありません。

同社が2025年11月に発表した30周年施策には、原宿の常設店舗と、2026年から巡回する記念展があります。シールの復刻、新しい育成玩具、店舗での体験、歴史を紹介する展示が並行している点に注目できます。過去の商品を知る人にも、今回初めて出会う人にも、入口を複数用意しているからです。

企業が参考にできるのは、周年という日付だけではないでしょう。商品を買う、実際に遊ぶ、展示で背景を知るといった参加の仕方を分ければ、初めての人が自分に合う方法を選べます。ここから売上の増加や再来店までを断定することはできませんが、ファンとの接点を考える具体例になります。

参加を検討するときは、発表資料と現在の会場案内を分けて見ます。過去の会期が書かれた記事を読んだだけで、今も同じ場所で入れるとは限りません。思い出の対象を紹介する記事だからこそ、昔の話と今日使える案内を混ぜないようにしたいところです。

プリクラ:交換するシールから、データも残る写真へ

1995年に登場した「プリント倶楽部」は、アトラスとセガの共同開発によるシールプリント機でした。画面でフレームを選び、撮影した写真をシールにして持ち帰る仕組みです。スマートフォンで撮った写真をすぐ送り合う現在と比べると、友人に渡す一枚を切り分ける作業そのものに特徴がありました。

1995年に登場した初代プリント倶楽部の筐体
画像引用:セガの沿革「プリント倶楽部」/©SEGA。初代の筐体です。

初代の筐体を見ると、撮影する機械と、写真を手元へ持ち帰るための装置が一体になっています。同じ店へ集まり、完成を待ち、出てきたシールを分ける。写真だけでなく、そこへ行った時間も思い出になります。

2025年にセガ フェイブとフリューが公開したプリクラ30周年の資料 は、その後の変化も紹介しています。撮影や加工の機能、写真データの受け取り方などが変わっているため、現在の機械で撮ることは1995年の体験をそのまま再現することではありません。

推しグッズを持って撮る場合も、機械や店舗の利用案内を先に確認したいところです。背景に何を置くか、落書きにどの色を選ぶか、シールを手帳のどこへ貼るか。撮影したあとにも選べることがあり、ライブや旅行の記録を自分で編集する楽しみにつながります。

一緒に写った人の写真をSNSへ出すときは、その人の希望を確かめます。シール交換と、誰でも見られる場所への投稿では、見せる相手の範囲が違うからです。「昔からみんなで共有していた」という記憶だけで、公開範囲まで同じに考えないことが大切です。

セーラームーン:同じ作品に、違う時期から入れる

東映アニメーションの作品紹介によると、テレビアニメ『美少女戦士セーラームーン』の第1シリーズは1992年3月に放送が始まりました。原作は武内直子の漫画です。変身アイテムやキャラクターの色、衣装を覚えている人にとっては、商品を見ただけで当時の場面が浮かぶ作品でもあります。

1992年放送のテレビアニメ『美少女戦士セーラームーン』の作品画像
画像引用:東映アニメーション『美少女戦士セーラームーン』作品紹介/東映アニメーション

この作品画像の衣装や配色は、長く作品を見てきた人がキャラクターを見分ける手掛かりになります。新しい商品を作るときにも、何を残せばその人物らしく見えるのかを考える材料になるでしょう。色だけを似せた雑貨と、許諾を受けてキャラクターを扱う公式商品は区別する必要があります。

セーラームーン公式サイト には、映像、舞台、商品などの情報が並んでいます。子どもの頃に見た人は、大人になってから別の価格帯や用途の商品を選べます。初めて知る人は、現在の商品や映像から入り、過去のシリーズへさかのぼることもできます。

長寿作品の商品には、同じキャラクターでも原作の絵、過去のテレビアニメ、新しい映像など複数の表現があります。「昔のセーラームーンが好き」という希望だけでは、選びたい絵柄が一致しないこともあるでしょう。復刻企画では、どの時期の、どの媒体を扱う商品なのかまで伝えると、ファンが選びやすくなります。

ゲーム:本体を集める楽しみと、作品を遊ぶ楽しみ

任天堂は1989年にゲームボーイを発売しました。任天堂の沿革 でも、平成の初めに登場した携帯型ゲーム機として記録されています。画面、ボタン、カートリッジがまとまった道具を持ち歩く体験は、平成レトロを考えるうえで外せません。

レトロゲームを楽しむ方法には、当時の実機やソフトを探す方法と、現在の公式サービスで配信される作品を遊ぶ方法があります。この二つは、同じ作品名でも必要な費用や準備が違います。実機には機械としての状態確認が必要で、現行サービスには会員条件や対応機種があります。

当時の道具を持つことが目的なら、形やボタンを押す感覚も選ぶ理由になるでしょう。一方、物語や遊びに触れたい人にとっては、現在使える機器で始められる方法が向いているかもしれません。推し活でも、「同じ物を所有したい」という気持ちと「作品を体験したい」という気持ちは、重なり合いながらも異なる希望です。

企画や売場でこの違いを無視すると、遊ぶために買ったのに対応する機器がない、復刻だと思ったら別仕様だった、といった行き違いが起こります。商品の年代を示すだけでなく、今の環境で何ができるかを説明することが、初めて買う人への案内になります。

90年代音楽:「初めて聴く」と「思い出す」が同じ曲で起きる

昔の曲を知る入口は、発売当時のテレビ番組やCDだけではなくなりました。公式に公開された音源や映像を通じて、発売年を知らないまま曲を好きになることもあります。親が聴いていた曲を子どもが別の場所で見つけ、同じ曲の話をする場面も考えられるでしょう。

たとえばTRFの「BOY MEETS GIRL」は、Apple Musicの作品情報でも1994年発売と案内されています。現在のTRF公式アーティストチャンネルの配信音源 は、2007年発売のベスト盤に収録された音源として案内されています。曲の初出年、収録アルバムの発売年、YouTubeへの公開年はそれぞれ別です。古い曲の公式動画を紹介するときも、この区別が必要になります。

CDを選ぶ場合にも同じことが言えます。最初に発売されたシングル、のちに出たアルバム、再録音、ライブ盤では、聴ける内容が違うことがあります。「懐かしい曲名が載っている」だけで選ばず、収録曲や版を確かめたいところです。

配信では曲をすぐ探せますが、CDにはジャケットや歌詞カードを手に取って眺める体験があります。どちらかだけが本当の楽しみ方なのではありません。まず聴いて好きになり、手元にも残したくなったら商品を選ぶ。その順番も、現在の推し活にある自然な選び方です。

なぜ、体験していない過去を推せるのか

平成レトロを「懐かしさ」だけで説明すると、当時を知らないファンが見えなくなります。体験していない人にとっては、古い物ほど、そのまま新しい発見になり得るからです。

1. 過去の作品にも、今日出会える

作品の発売順と、自分が見る順番は違います。新しいコラボから原作を読み始め、昔のシリーズへ進む人もいます。初めて知る人に必要なのは、当時の人気を前提にした説明より、今どこから触れられるかという案内です。

2. 手を動かした結果が、手元に残る

シールを重ねる、写真を切る、本体を持ち歩く。こうした動作には、あとで見返せる物が伴います。自分で選んだ順番や組み合わせが残るため、同じ商品でも持ち主ごとに違う記録になります。祭壇 や手帳を作る現在の推し活にも、似た楽しみがあります。

3. 世代が違う人とも、具体的な物の話ができる

「平成はよかった」という大きな話では好みが一致しなくても、「このシールを持っていた」「このキャラクターを育てた」という話なら、違いごと共有できます。知らない側が教わるだけでなく、初めて見る側の使い方から、昔のファンが楽しみ方を知ることもあるでしょう。

企業が復刻企画を作るなら、まず体験を分けて考える

復刻には、商品そのものを再び作る方法もあれば、絵柄を新しい商品へ展開する方法、展示や店舗で当時の文化を紹介する方法もあります。どれも同じ効果を持つわけではありません。何を持ち帰ってほしい企画なのかを先に決める必要があります。

企画の形ファンが求めるものの例企画者が示したい情報
当時の商品の復刻形、手触り、操作、遊び方との再会再現した部分と変更した部分
新しい用途のコラボ商品好きな絵柄を今の生活で使うこと絵柄の出典、仕様、対象となる作品
展示・体験型店舗作品の歴史を知ること、写真や記録会期、入場条件、撮影できる範囲
音楽・映像の再公開初めて触れること、昔の作品を見直すこと公開元、版、視聴条件

とくに気をつけたいのが、懐かしさを購入の焦りに変えすぎないことです。限定商品を出す場合でも、販売期間、個数制限、再販売の案内先を分かりやすく示せます。昔買えなかった記憶を持つ人へ、再び競争だけを求める企画にしない配慮が必要です。

また、「当時の女の子なら誰もが持っていた」といった決めつけも避けたい表現です。育った地域や家庭、好みによって経験は違います。持っていなかった人や、今初めて知る人も楽しめる説明にするほうが、長く続いてきた作品の新しいファンを迎えやすくなるでしょう。

いま選ぶときの、三つの確認

欲しいのは当時品か、復刻版か、新しい商品か。 同じ名前でも世代や仕様が違います。公式の商品写真と説明を比べ、本体・付属品・対応機器を確認します。

遊びたいのか、飾りたいのか、記録したいのか。 やりたいことを一つ決めると、最初から大量にそろえずに始められます。初めて好きになった気持ちを、持ち物の多さで証明する必要はありません。

誰と、どこまで共有したいのか。 友人と見せ合う物、SNSへ出す写真、家の中で楽しむコレクションは、同じ形である必要がありません。作品や他の人の写真を使う場合は、権利者の案内と写っている人の希望も確かめます。

商品を探す場合は、AmazonでOriginal Tamagotchiを検索 、Amazonでたまもりしーるを検索 から候補を比較できます。検索結果には別世代の商品や中古品も含まれるため、公式の商品情報と、販売元・状態・価格を照らし合わせて選んでください。

推し活未来研究所メモ:出会った年から、好きでいていい

平成レトロでは、同じ商品に対して「覚えている人」と「今日知った人」が並びます。初代たまごっちを持っていたことも、1992年の放送を見ていたことも、現在のファンとして楽しむための資格ではありません。

企業にとっては、昔のファンが残してほしい形や遊びを知ることと、新しいファンに必要な説明を用意することの両方が仕事になります。ファンにとっては、昔の記録を読みながら、自分が気に入った物や作品から選べばよいのでしょう。

復刻されたシールを初めて貼る。古い曲を今日の帰り道に聴く。過去の作品を好きになる時間は、いつからでも始められます。

関連記事:推し活とは / 推し活の歴史・アクスタ編 / 推しカラーとは

よくある質問

平成レトロとは何ですか?

主に1989年から2019年の平成期に親しまれたファッション、玩具、音楽、写真文化などを、現在の感覚で楽しみ直す動きです。なかでも1990年代から2000年代前半の文化が注目されています。

平成を知らない世代にも人気なのはなぜですか?

公式に公開された昔の映像や音楽、復刻商品が、新しく作品に触れる入口になっています。シールを貼る、玩具を育てる、CDを持つといった体験も、当時を知らない人にとっては新しい楽しみになり得ます。

平成レトロと推し活にはどんな共通点がありますか?

好きなものを集め、身につけ、撮影し、記録して誰かと共有する点です。昔の玩具や音楽も、現在ではファン同士がつながる「推す対象」として楽しまれています。

企業が平成レトロ企画を成功させるには何が必要ですか?

当時のファンが大切にしてきた形や遊び方を理解し、初めて知る人にも参加方法を説明することです。復刻版の変更点、販売条件、扱う作品の版を明示し、企画の仕組みと実際の成果を分けて考えます。