推し活×本棚

『「好き」​を​言語化する​技術』​書評|​「やばい」​の​先へ、​感想を​自分の​言葉に​する

『「好き」を言語化する技術』書評|「やばい」の先へ、感想を自分の言葉にするの書影
書影:版元ドットコム/ディスカヴァー・トゥエンティワン(画像引用)

「推しの素晴らしさを語りたいのに『やばい!』しかでてこない」。書評家・三宅香帆さんの『「好き」を言語化する技術』(ディスカヴァー携書・2024年刊)に添えられたこの副題は、好きな理由をうまく言葉にできないもどかしさをそのまま表しています。

本書は、その「やばい」の先へ進むための文章術を紹介する一冊です。出版社は2026年3月に30万部突破を公表しています。

この本について

著者の三宅香帆さんは、自身も宝塚やアイドルを愛する書評家です。本書は、「好き」を言葉にする工程を、SNS投稿・おしゃべり・ファンレター・長文レビューと場面別に分解しています。そのうえで、例文つきで「自分だけの言葉」の作り方を教えてくれます。

本書の中心にあるメッセージはシンプルです。推しを語ることは、自分の人生を語ることです。ありきたりに思える感想でも、自分がどこに反応したのかをたどれば、体験を伝える手掛かりになります。

実用書としての作りも親切です。「うまく書こうとしなくていい」「ありきたりな言葉からいったん離れる」という心構えから始まり、具体的な手順へと段階的に進みます。文章術の本にありがちな「読んだけど書けない」で終わりにくいのは、著者自身の推し語りが例として豊富に載っているからです。読みながら、そのまま真似できます。

三宅香帆さんは、「やばい」で止まった感想を動かす最初の問いをこう表しています。

立派な表現を探す前に、自分の反応へ「なぜ」と問いかけてみます。誰のどの行動に驚いたのか、過去の何を思い出したのかをたどると、借り物ではない言葉が生まれます。

印象的な論点:他人の感想を見る前にメモする

本書の技術のなかで、いちばん今日から使えるのは「他人の感想を見る前に、自分の感想をメモする」という習慣です。

ライブや映画のあと、まずSNSの感想を読むことはないでしょうか。うまい表現に出会うと、自分の感想もそれに重ねたくなることがあります。

そこで順番を変えて、先に自分のメモを取り、それからSNSを見ます。長い文章でなくても、印象に残った場面やせりふを一つ残しておけば、あとから読んだ人の感想と自分がそのとき感じたことを比べられ、記憶をたどる出発点にもなります。

編集長の視点

研究所では、ファンが自分の体験を言葉にする過程を理解するための本として、本書を読みます。企業が感想を募るときにも、ファンが何を見て、どこに心を動かされたのかを聞く手掛かりになります。

OSHI-MAP®の7軸の最後にある「プロモーター(ファンの口コミで広がっているか)」を考える際にも、投稿数だけでなく、ファンがどのような体験を語っているかを見たいところです。ただし、本書は広告と口コミの効果を比較して証明するものではありません。

企業にできるのは、ファンの言葉を決めることではなく、自分の感想を話しやすい場を用意することです。感想の募集では、決まった褒め言葉へ誘導せず、短い言葉や異なる受け止め方も尊重し、投稿しない人にも参加方法を残します。そのうえで、集まった感想を商品や体験の改善に生かす使い方が考えられます。

推し活未来研究所メモ:ファンが自分の言葉で語れる場をつくる

  1. 言葉の巧みさで熱意を測らない — 短い感想や投稿しない選択も尊重し、文章量でファンを序列化しない
  2. 具体的な体験を聞く — 「どの場面が印象に残ったか」など、ファンが自分の記憶をたどれる問いを用意する
  3. 発信と利用の条件を明示する — 感想ハッシュタグや投稿欄を整える際は、企業が紹介する場合の許諾や掲載範囲も分かるようにする

どんな人に刺さるか

  • 「やばい」から先に進みたいファン — 推しの魅力を周りに伝えたい人、感想ブログやレポを書いてみたい人にはうってつけの一冊です
  • 推しの記憶を残したい人 — 言語化は誰かに伝えるためだけではありません。あの現場で自分が何を感じたかを未来に残す、「好き」のアーカイブ術でもあります
  • ファンの口コミを増やしたい企業担当者 — ファンが語りやすい仕掛けを考える人にとっても、実践的な手引きになります

書籍情報

書名『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』
著者三宅香帆
出版社ディスカヴァー・トゥエンティワン(ディスカヴァー携書)
今回紹介する版ディスカヴァー携書・2024年7月31日発売
ISBN978-4-7993-3083-8

本書は、2023年刊『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』の携書版です。出版社の書籍ページでは、判型以外の内容は同じと案内しています。既に旧版を持っている方は、購入前に版を確かめてください。30万部突破の発表も同ページから確認できます。

購入はこちら: Amazon/楽天ブックス

公開コンテンツとつなげて読む

布教とはでは、推しの魅力をまだ知らない人へ渡すときの言葉と距離を整理しています。本書の技術を、強いおすすめではなく、相手が興味を持ちやすいきっかけに変えるための実践編です。

推し語りとはも合わせて読むと、上手な文章を作ること以上に、自分の体験をどこまで誰へ向けて話すのかが見えてきます。企業側の視点は推し活マーケティングとはで補えます。

この本を読んだ人におすすめの3冊

書名なぜおすすめか
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆)同著者の大ヒット作。「好き」に時間を割けない社会構造の話は、推し活疲れの問題と地続き
『読みたいことを、書けばいい。』(田中泰延)「自分が読みたいものを書く」という原則は、推し語りにもそのまま効く文章術の定番
『イン・ザ・メガチャーチ』(朝井リョウ)言語化されたファンの熱量が「経済圏」になったとき何が起きるか。次はその構造を物語で(書評はこちら)

推し活×本棚では、推し活・ファン文化の本を1冊ずつ深掘りしています。

まとめ

企業にとって本書は、ファンが体験を言葉にする過程を理解する一冊です。感想の量だけを求めるのではなく、一人ひとりが自分の言葉を見つける時間を尊重するための手がかりになります。

よくある質問

『「好き」を言語化する技術』はどんな本ですか?

書評家・三宅香帆さんによる、推しの魅力を自分の言葉で語るための実用書です(ディスカヴァー携書・2024年刊)。出版社は2026年3月に30万部突破を公表しています。

文章を書くのが苦手でも実践できますか?

本書はSNSの短い投稿・おしゃべり・ファンレターなど、場面ごとの手順を紹介しています。「他人の感想を見る前に自分の感想をメモする」といった方法は、企業が感想を募る際に、回答しやすい問いや投稿方法を考える参考にもなります。

企業のマーケティング担当者にも役立ちますか?

ファンが何に心を動かされ、どう言葉にするかを理解する参考になります。感想を募る問いや投稿の場を考える際に役立ちますが、広告より効果が高いことを示す本ではありません。推し活マーケティングとはと併読すると、施策への生かし方を考えられます。