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ファンがヒットをつくる時代——AKB48・FRUITS ZIPPERに学ぶ「参加」

松田聖子・中森明菜の時代から、モーニング娘。、AKB48、FRUITS ZIPPERまで。テレビ、CD、劇場、総選挙、握手会、SNSをたどり、ファンの「参加」がビジネスを動かす仕組みと、応援を責任にしないための境目を考えます。

7章

EPISODE 6730:54

この回の最初の章テレビが「選ばれていく人」を見せた

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松田聖子さんや中森明菜さんをテレビで見ていた時代。モーニング娘。のメンバーについて友達と話していた時代。AKB48の総選挙が大きな話題になった時代。同じようにアイドルを応援していても、ファンにできることは少しずつ変わってきました。

2026年2月にも、AKB48は劇場でCDを買った人が握手会に参加できるイベントを開いています。一方で、SNSで知った曲を自分で踊り、そこからグループのファンになる人もいます。曲を聴くことに、会うこと、順位を動かすこと、自分で表現することが重なってきたのです。

「昔のアイドルは遠く、今は近い」とよく言われますよね。でも、昔も手紙を書き、コンサートへ通う人はいました。今も、画面越しに楽しむ人がいます。近いか遠いかだけでは、ファンの楽しみ方を言い表せないのかもしれません。

今回は1970年代から現在までの日本の女性アイドルを例に、三つの問いを追います。誰がアイドルを選ぶのか。ファンが応援すると何が変わるのか。そのとき、お金はどこへ入るのか。

テレビが「選ばれていく人」を見せた

1971年、日本テレビでオーディション番組『スター誕生!』が始まりました。森昌子さん、桜田淳子さん、山口百恵さんがこの番組から歌手になっています。1982年に『スローモーション』でデビューした中森明菜さんも、この番組でスカウトされた一人です。

番組が見せたのは、完成した歌手だけではありません。まだ知られていない人が審査を受け、選ばれていく姿です。デビュー曲を聴く前から知っていた人が、歌手になる。その過程を一緒に見てきたからこその楽しみが、この頃からありました。

ただし、合否を決めるのは審査員で、デビュー後の活動は芸能事務所やレコード会社が決めます。視聴者がどれだけ好きになっても、その気持ちが次の曲で誰が歌うかを決める投票になることはありませんでした。

1980年にデビューした松田聖子さんを、歌だけでなく衣装や髪形まで覚えている人は多いでしょう。ファンはレコードで曲を聴き、テレビで歌う姿を見て、雑誌で写真や記事を読みました。同じ歌手を好きな気持ちから出たお金でも、行き先はレコード会社、出版社、コンサートの主催者に分かれます。

ファンが投票する仕組みも、この頃からありました。雑誌『明星』の歴史をまとめた研究ノートは、1975年に読者人気投票が「アイドル人気投票」へ名前を変えたことを紹介しています。この投票は、同じ年に始まった日本テレビ音楽祭の「トップ・アイドル賞」と連動していました。好きな人に賞を届ける投票と、次の曲で歌う人を決める投票では、ファンが動かせるものが違います。

1985年4月にフジテレビで始まった『夕やけニャンニャン』では、視聴者が歌以外の場面でもおニャン子クラブのメンバーを繰り返し見られました。大勢の中から自分の好きな人を見つける楽しみが、テレビの中で見えやすくなります。

モーニング娘。の5万枚は、デビューへ進む条件だった

1997年、テレビ東京の番組『ASAYAN』のオーディションをきっかけに、モーニング娘。が結成されました。元々は「シャ乱Q 女性ロックヴォーカリスト オーディション」です。最終候補の11人に残りながら選ばれなかった5人が、別のチャンスを得てグループになりました。

5人には、インディーズのシングル『愛の種』を決められた日数と枚数で手売りし、売り切ればメジャーデビューできるという条件が課されました。

普通、CDの売上は発売後に出てくる結果です。『愛の種』では、先に目標がありました。達成すれば、5人が次へ進める。曲が好きだから買うことに加えて、自分の1枚で、その先の物語に関われるようになったのです。

DIAGRAMテレビと売り場を行き来して、CDを買うことが出来事になる
  1. 番組で知る5人の挑戦と条件を放送で見る
  2. 売り場で買う5人が手売りする会場へ行く
  3. 番組で見届ける目標に届いたかを放送で確かめる

放送だけでは、応援していても会場へ行かない人がいます。売り場だけでは、5人を知ってもらえる範囲が限られます。

買った理由は、曲が好き、番組の続きが気になる、直接見て応援したくなったなど、人によって違ったでしょう。運営する側から見ると、会場まで来てお金を払う人がどれだけいるかを確かめる機会にもなりました。

5万枚の達成は、大きな節目です。その先には、次も聴きたいと思ってもらうために、曲を作り、歌やダンスを磨く仕事が待っています。モーニング娘。はその後、加入と卒業を重ねながら、グループの名前と曲を受け継いで活動しています。

長く見ている人は、今と昔のメンバーを比べて楽しめます。一方で、好きなメンバーの卒業をきっかけに離れる人もいるでしょう。個人を好きな気持ちとグループを好きな気持ちが重なるところに、続けることの難しさと強さの両方があります。

AKB48劇場で育った「自分が見つけた」感覚

AKB48は2005年12月8日、秋葉原の専用劇場で公演を始めました。コンセプトは「会いに行けるアイドル」です。全国で有名になってから大きな会場に立つのではなく、まず公演を見られる場所を持ち、繰り返し来てもらうところから始めました。

全国放送のテレビと比べると、1回の公演で届けられる人数は限られます。そのかわり、劇場では観客が自分で誰を見るかを選べます。テレビなら、見るのはカメラが映した人です。劇場なら、中央で歌う人だけでなく、横で踊る人や表情が変わった人にも気付けます。

ただし、劇場の席は簡単に増やせず、出演するメンバーの体力と時間にも限りがあります。近さを大切にするほど、同時に届けられる人数には上限ができます。AKB48の活動はCD、テレビ、コンサート、イベントへと広がり、2009年には選抜総選挙が始まりました。

総選挙の票は、何を数えていたのか

選抜総選挙は、次のシングルで表に立って歌う選抜メンバーや、カップリング曲を歌うメンバーを、ファンの投票で決める企画です。中心で歌う位置はセンターと呼ばれます。2014年の総選挙では、選抜とカップリングを合わせた80人を投票で決めました。

票の数と人数を分けて考えるのは、投票の権利が商品やサービスと結び付いていたからです。2014年の公式案内には、いくつもの投票経路が並んでいます。CDに入っている投票用のシリアルナンバーのほか、公式ファンクラブ、モバイル会員、映像配信の月額会員などです。

そのため、票数にCDの価格を掛けても、総選挙の売上にはなりません。それでも、音楽や会員サービスと一緒に、推す人の出番や立ち位置を動かす参加の機会が用意されていたことはわかります。

同じ「CDを買う」でも、応援の向きが違う

1997年の『愛の種』5人が先へ進むのを支える

目標の枚数に届けば、5人そろってメジャーデビューへ進めます。

2009年からの総選挙誰を上の順位へ押し上げるかを選ぶ

ほかのメンバーと比べられる中で、推す人の順位が数字で見えるようになります。

順位が発表される日も、大きな見どころになります。結果を知りたい、本人が何を話すか聞きたい。投票していない人も、その瞬間を見届けたくなる。応援することと、その結果を見ることが、一つの企画としてつながっているのです。

ただ、順位はその仕組みで集まった票の結果です。歌のうまさや、人としての価値を測ったものではありません。すごい数字に驚きながらも、その人を数字だけで見ない。そのためにも、何を数えているのかは知っておきたいところです。

1,200円のCDで手に入るもの、手に入らないもの

総選挙が過去の話題になっても、会う機会を商品と結び付ける仕組みは続いています。AKB48は2026年2月、シングル『名残り桜』の発売を記念して、発売日の2月25日に劇場で個別握手会を開くと案内しました。

対象は税込1,200円の通常盤です。劇場のロビーでCDを1枚買うと、希望するメンバーの参加券を1枚受け取り、券1枚で1回握手会に参加できます。販売する数には限りがあり、参加するメンバーや時間も部ごとに決められていました。1回で複数枚を買った場合は、その分の券をまとめて使うルールです。

同じCDをもう1枚持つ意味は、音源とは別のところにあります。券の枚数に応じて、参加できる回数が増えるからです。CDが音楽を聴くためのものから、特典や参加の権利を入れるものへ変わると何が起きるのか。研究所では「CD特典商法」の限界を調べたnote記事で詳しく取り上げています。

公式案内には、握手の仕方、手荷物、暴言や撮影の禁止など細かいルールが並び、長時間立ち止まって話すこともできません。会う回数を増やしても、本人の1日の時間は増えません。近さを売る商売では、人の時間がそのまま上限になります。

参加券で手に入るものと、手に入らないもの

手に入るもの案内された条件の中での参加

決められた時間と会場、ルールの中で、メンバーと直接会って言葉を交わせます。

手に入らないもの相手の私生活や気持ち

どれだけお金を使っても、私生活に踏み込む質問や特別な対応を求める権利は付きません。

近くで会えると、「これだけお金を使ったのだから」と、相手の私生活まで知りたくなることがあるかもしれません。でも、参加券で買える体験には範囲があります。会う機会を作る側にも、その境目を伝える役割があります。

DIAGRAM同じ応援でも、場所によってできることが違う
  • アイドルを応援するその人の活動を楽しむ
  • 劇場同じ空間で歌や成長を見る
  • 総選挙選ばれ方に参加する
  • 握手会短い時間でも直接会って話す

どれかが高い版で、どれかが安い版というわけではありません。

対面のイベントは本人を好きな人にとって魅力的ですが、同じメンバーが全員と長く会うには限りがあります。まだグループを知らない人に、曲や映像で広く触れてもらう。その役割を強く担うようになったのがSNSです。

FRUITS ZIPPERは、曲を使う人から広がった

FRUITS ZIPPERは2022年に結成された7人組のグループです。グループ名を知らなくても、『わたしの一番かわいいところ』をSNSで聴いたことがある人は多いでしょう。この曲をきっかけに、グループは広く知られるようになりました。

プロデューサーの木村ミサさんは、読者モデルを経て、アイドルグループ「むすびズム」のリーダーを務めた人です。WIREDのインタビューで木村さんは、コロナ禍でライブを思うようにできなかったと振り返っています。だからこそ、これまでのアイドルファンではない人に目を向け、この曲を最初からSNSを意識して作ったそうです。

この曲が広がってからは、SNSで広げたい曲なら、歌割りや振り付けが決まった段階でどんな画角で撮影するかを考えるようになったと話しています。スマートフォンの画面にどう収まるかまで、作る段階で考えています。

テレビで流れてくる曲を聴くだけでなく、その曲で自分も踊り、動画を投稿する。SNSでは、そんな楽しみ方ができます。友達が踊る動画からグループを知る人もいて、ファンや一般の人の投稿が、新しい入口になります。お金を払うこと以外にも、参加の方法が広がったのです。

真似したくなる曲には、聴いた人が自分の毎日に持ち込みたくなる部分があります。言ってみたいフレーズ、友達と踊りたい振り付け、真似したい服やメイクです。

FRUITS ZIPPERが掲げる「NEW KAWAII」は、メンバーの個性を一つの型に合わせず、違いを肯定する考え方です。ファンは「この人のようなメイクをしてみたい」と自分に重ねることもできます。男性ファンが女性アイドルを応援するという形だけでは、この人気は説明できません。

DIAGRAM数秒の動画からライブ会場までには、いくつも段差がある
  1. 動画で曲を知る今すぐ無料で見られる
  2. ほかの曲やメンバーを知る自分で調べて聴いてみる
  3. ライブに行く予定を空け、チケットを買う

進むほど人数は絞られます。動画を見た人が全員、会場まで来るわけではありません。

SNSでたくさん見られても、それだけでビジネスが成り立つわけではありません。FRUITS ZIPPERは2026年2月1日、初めての東京ドーム単独公演「ENERGY」を開きました。この公演に行くには1万円以上を払い、予定を空けて会場まで出かける必要があります。

「あの1曲を知っている」から、「ほかの曲も聴きたい」「メンバーに会いたい」へ。会場に来てもらうには、その間をつなぐ時間が要ります。動画が一度たくさん見られたら終わり、という話ではないのです。

テレビの役割が消えたわけでもありません。テレビで気になった人の動画を探すこともあり、2026年にも劇場で握手会が開かれています。昔からの楽しみ方に、新しい楽しみ方が重なっています。

応援を、ファンの責任にしないために

DIAGRAMファンにできることは、時代ごとに増えてきた
  1. 1970〜80年代テレビや雑誌で見守り、賞に投票する
  2. 1997年CDを買い、デビューの条件に関わる
  3. 2005年〜劇場で会い、握手し、選抜に投票する
  4. 2020年代曲で踊り、動画で広める

前の時代の楽しみ方がなくなったわけではありません。新しい関わり方が重なってきました。

振り返ると、「昔は歌を売っていて、今は歌以外を売っている」とは言えません。松田聖子さんや中森明菜さんの時代も、ファンは衣装や髪形、テレビでの姿、雑誌の記事まで含めて好きになっていました。変わったのは、ファンに用意された役割です。女性アイドルの歴史は、作り手がファンにどんな役割を渡してきたかの歴史としても読めます。

「あなたの応援で未来が変わる」。無名の頃から見ていた人が大きな舞台に立てば、本当にうれしいものです。ただ、その言葉が「もっと買わなかったから負けた」「もっと広めなかったから届かなかった」に変わると、応援は重くなってしまいます。

企画する人へ参加型の企画を始める前に確かめたいこと
  1. ファンに渡される役割が、時代ごとに増えたテレビで見守る、CDで物語に関わる、投票で選抜を動かす、SNSで広める。前の時代の楽しみ方も残ったまま重なっています。
  2. 数字が何を数えているかを確かめる総選挙では推しに票を投じ、握手会では参加券の付くCDを買う。同じ商品を買うことにも、応援や交流という違う楽しみが重なっています。
  3. 参加の楽しさを残し、重さをファンに背負わせない何が手に入り、何が手に入らないかを示すことは作り手の仕事です。それが、長く好きでいてもらうための条件になります。