推し活×書店・文具|推し活棚・推し活文具フェアの売場づくり
書店や文具メーカーでは、トレカ用バインダーやグッズの保護用品など、推し活向けの商品を扱う事例が見られます。書籍や従来の文房具に加え、ファンの収集・保管の需要に対応した売り場づくりが進んでいます。

文具・雑貨の取り扱いは、書籍以外の売上を確保する取り組みでもあります。一方、限定特典の販売では買い占めへの対応も課題になります。2025年9月からの事例をもとに、商品構成と売り場づくりを整理します。
書店は「滞在する場所」へ移りつつある
帝国データバンクの書店の倒産動向(2025年6月3日発表)によれば、2025年1〜5月の書店倒産は1件で、前年同期の11件から大きく減りました。ただし業績が悪化した企業は58.3%(うち赤字34.4%)にのぼります。倒産が減ったのは経営が上向いたからではなく、書籍販売以外の柱を作りにいったからです。同レポートは生き残り策として、文具・雑貨コーナーの拡大など「滞在型」への転換を挙げています。
その転換先の一つが推し活でした。共同印刷HintClipがPR TIMESのデータを分析した2026年注目キーワードの記事によると、プレスリリース中の「推し活」出現件数は2021年の46件から、2024年891件、2025年1,337件へと増え続けています。企業側が推し活という言葉で発信する量が、4年で約29倍になった計算です。
市場側の裏づけもあります。推し活総研(CDG・Oshicoco)が2026年1月30日に発表した第3回推し活実態アンケート調査(2026年1月15日〜22日、15〜69歳の男女23,125人が対象)では、市場規模は前年の約3.5兆円から約4.1兆円へ拡大し、推し活人口は約1,940万人(全体の24.0%)と推計されました。
一方で、年間支出額の平均は209,716円(前年255,035円)へ下がり、中央値は約4万円でした。
人数は増え、一人あたりの支出は下がっています。この形は書店と文具に有利です。中央値4万円の中に、1,760円の手帳や数百円のバインダーは無理なく収まります。
事例で見る、書店の売場設計
CCC「IP書店」— 旗艦店の型を全国へ複製する
CCCは2024年4月25日、SHIBUYA TSUTAYA6階にコミック・フィギュア・グッズを集積した「IP書店」を開業しました。月替わりポップアップ、100の二次元IPを紹介する「IP100」、大型展示ができる「Gallery」の3エリア構成で、同年12月には大阪のTSUTAYA EBISUBASHIにも展開しています。そして2025年4月10日、この内容をインショップ方式で全国のグループ店舗に置く「IP書店 サテライトストア」の展開を発表します。1号店は4月24日開店の福岡天神 蔦屋書店でした。
- 狙い:大型旗艦店でしか体験できなかったキュレーションを地方店舗にも複製する
- 施策:売場をゼロから開発せず、確立済みのフォーマットを移植する
- 研究所の見立て:渋谷の成功を「もっと大きい旗艦店」ではなく「小さい複製」に振り向けた判断が要点です。推し活売場の難所は集客ではなく版元交渉と在庫運用にあり、そこを本部が持って店舗は場所を出すだけにした構造は、他業種にも移植できます
未来屋書店「キャラクタースポット」— 常設棚17店舗
未来屋書店は2026年5月12日、アニメ・コミック・ゲーム雑貨を扱う常設棚「キャラクタースポット」を全国17店舗に開設したと発表しました。アクスタや缶バッジを扱い、取扱コンテンツは3種類ごとに不定期で入れ替えます。初回は『ポケモンマスターズEX』『僕のヒーローアカデミア』『鯛代くん、君ってやつは。』の3コンテンツでした。
- 狙い:期間限定ではなく、常設の収益源として推し活グッズ売場を組み込む
- 施策:棚は固定し、中身のIPだけを回す。会期の概念を持たせない
- 研究所の見立て:常設棚の価値は売上より「いつ行ってもある」という来店理由にあります。ポップアップは会期が終われば理由も消えますが、棚は残ります。ただし入れ替えは版元契約の更新サイクルを常時管理する運用でもあり、本部機能なしには回りません
紀伊國屋書店新宿本店 — 月替わりで打ち続ける
紀伊國屋書店新宿本店は、アニメ・漫画IPのポップアップストアを月替わりで連続開催しています。2025年7月30日から8月11日まで「悪役令嬢の中の人」、8月13日から24日まで「究極超人あ〜る」、2026年2月3日から3月4日には東京・大阪で「きらりん☆レボリューション」と、イベント一覧が途切れません。
狙いは、一つの書店を「常にどこかのIPのポップアップをやっている場所」として認知させることです。研究所の見立てでは、この型の効果は個々の会期ではなく「見に行けば何かある」という習慣が生まれるかで決まります。会期ごとの費用対効果で判断すると続きません。
事例で見る、文具メーカーの商品設計
マークス「funlog」— 記録することをブランドにする
マークスは2025年7月15日、ライフログを楽しむための新ブランド「funlog」を発表し、2026年版ライフログ手帳を8月7日に発売しました。日付フリーのログダイアリー、週間ブロック手帳、メッシュポーチ、ペンケース、シールを展開し、推し活・遠征・グッズ管理の記録用途を明示しています。同ブランドは2026年6月24日、第35回日本文具大賞2026のトレンド部門で優秀賞を受賞しました。
- 狙い:既存の手帳・雑貨メーカーとして、記録すること自体を楽しむ専用ブランドを新設する
- 施策:特定IPと組まず、推し活という行動様式に商品カテゴリを合わせる
- 受賞:日本文具大賞トレンド部門優秀賞を受賞(グランプリは別製品)
- 研究所の見立て:IPを持たない企業が推し活市場に入る現実的な道が、この「行動に合わせる」型です。版権料も監修も要らず、どのジャンルのファンにも売れます。代わりに、なぜこの商品かを機能で説明し続ける必要があります
インプレス「推し活ライフ手帳2026」— 年次更新でシリーズにする
インプレスは2025年9月4日、B6判・税込1,760円の「推し活ライフ手帳2026」を発売しました。ライブ・イベントレポート24公演分、感想記録88本分、グッズ・チケット管理、複数の推しを書き分けられるマンスリー、遠征専用の「Trip」ページを備えます。購入者特典として、推しカラーに合わせた10色のカバーPDFも配布されました。
- 狙い:手帳という書店の定番カテゴリを推し活需要に特化させ、毎年の買い替え需要を作る
- 施策:公演数・感想数という具体的な記入枠を設計し、複数推しにも対応させる
- 研究所の見立て:手帳は年が変われば必ず買い替えが起きる、数少ない「更新が前提の商品」です。推し活グッズの多くが一度買えば終わるのに対し、ここは構造的にリピートが組み込まれています。カバーPDFの10色配布も、印刷コストをかけずに推しカラーへ対応する手です
コクヨ・キングジム — 「見せる」と「守る」を両立させる
GoodsPress Webが2026年3月6日に掲載した「推し活文具」最前線では、キングジムの担当者が「趣味・推し活向け文具はカスタマイズが増え、使い勝手・可変性が重視される」と述べ、コクヨの担当者が「見せると守るの両立が必要」とコメントしています。キングジムが2023年5月に発売したコレクションバインダー「favluv」、コクヨが同年6月に発売したペンケース「ピープライト」から続く流れです。
推し活文具が売れる条件は、キャラクターが印刷されていることではありません。トレカの角を折らずに入る、硬質ケースが日焼けしない、痛バの中で缶バッジがずれないこと。実用が先で、装飾は後です。飾り方は推しグッズの収納アイデアでも整理しています。
特典カードの買い占めが、売場を壊すとき
書店の推し活売場でいま最も重い課題は、限定特典の配布オペレーションです。
集英社が2026年7月1日に始めたコミックスフェア「ナツコミ2026」では、『ONE PIECE』『SAKAMOTO DAYS』『キングダム』など全22種の描き下ろしメタキラカードが配布されました。しらべぇが7月6日に報じた店頭の状況によれば、開店直後にコミックスが大量に書架から落下しているのが目撃されるなど、店頭が荒れる事態が発生し、今井書店大田店は特典配布自体を中止しています。目撃者の報告では、レジに約15人が並ぶ一方で店員は2名のみで対応に追われたとされています。同じ7月には、週刊少年ジャンプ2026年7月13日号のONE PIECEカード付録をめぐって買い占めが起き、同号で完結した連載の最終回を読みたかった読者が入手できない事態となりました。
押さえたいのは、これが特定の書店や出版社の落ち度ではなく、設計の構造から生まれた結果だという点です。数量限定の付録が本体より高い価値を持つと判断された瞬間、購入は競争になります。ランダムグッズや特典で繰り返されてきた問題が、書店の店頭で再現された形です。書店はレジ人員が少なく、棚が可動で崩れやすく、対象商品を即座に判別しづらい場所です。同じ設計でも、被害の出方が重くなります。
成功パターンと注意すべきパターン
| 観点 | うまくいっている型 | つまずきやすい型 |
|---|---|---|
| 売場の持続性 | 常設棚・年次ブランドとして残す | 会期ごとの費用対効果だけで継続を判断する |
| 商品の訴求点 | 見せる・守る・記録するという機能で説明する | キャラクターを印刷しただけで推し活商品と呼ぶ |
| 地方展開 | 旗艦店のフォーマットをインショップで複製する | 各店舗に個別開発を求める |
| 特典配布 | 購入点数制限とレジ体制を企画段階で決める | 混乱が起きてから配布中止で対応する |
つまずく側は、いずれも商品の魅力ではなく運用の穴です。特に特典配布は、企画部門が決めた条件を店頭が受け止める構造で、決定する場所と負担する場所がずれています。対象書籍を店頭で判別できるよう掲示するだけでも、レジでの摩擦は減ります。
企業担当者向け:売場と商品の設計手順
- 常設か期間限定かを先に決める:常設棚は来店理由を作るが版元契約の常時管理が要り、ポップアップは集客力が高いが会期ごとに工数が立つ。両方やるなら本部と店舗の役割分担を先に切ります
- 推し活文具は機能仕様から書き起こす:カードのサイズ、缶バッジの厚み、退色、型崩れ。守る対象の実寸を決めてからデザインに入ります
- 買い替えが起きる商品を1つ持つ:手帳、リフィル、消耗するスリーブ。単発グッズだけでは翌年が積み上がりません
- 特典の配布条件を店頭の目線で検算する:対象商品を店員が3秒で判別できるか、レジ1台で何人捌けるかを企画書に書きます
- 1人あたりの点数制限を初日から出し、配布数を店舗規模で配分する:後から制限を入れると「最初から対策すべきだった」という不満が残り、都市部の大型店に配布を寄せると地方店の来店客が空振りします
企画前チェックリスト
- 常設棚か期間限定かを決め、それぞれの運用主体を明記した
- 1人あたりの購入・受取点数の上限を告知に入れた
- 初日のレジ増員と、棚が乱れた際の復旧手順を決めた
- 売上以外に、来店回数と店頭の負荷を測る方法がある
推し活未来研究所メモ:書店が売っているのは「推しを残す方法」
推し活文具が伸びている理由を、キャラクター商品の一種として説明するのは正確ではありません。マークスのfunlogもインプレスの推し活ライフ手帳も、特定のIPを載せていません。それでも売れるのは、これらが推し活の記憶を残す道具だからです。ライブは終わり、会期は明け、グッズは増えて置き場を失います。そこに残るのは、24公演分の記録欄と色褪せないバインダーです。
書店がこの領域に強いのは、もともと記録された言葉を扱う場所だからだと研究所は見ています。IP書店も常設棚も、本の隣にグッズを置いているのではなく、推しに関する情報と道具を一箇所に集めています。コミックスを買った人が、その足でバインダーと手帳を買って帰ります。この動線の自然さが、書店の資産です。
ただしその資産は、特典カードの一件のように一日で傷つきます。棚から本が落ち、目当ての本を買いに来た読者が手ぶらで帰ります。失われるのはその日の売上ではなく、書店への信頼のほうです。研究所が注目しているのは、次にどのIPが来るかではなく、特典の設計図に店頭のオペレーションが書き込まれる日が来るかどうかです。
よくある質問
書店はなぜ推し活グッズや文具の売場を広げているのですか?
書籍販売だけでは収益が立ちにくく、滞在型の売場へ転換しているためです。帝国データバンクも生き残り策として文具・雑貨コーナーの拡大を挙げています。
推し活文具とは具体的にどんな商品ですか?
トレカを飾りながら守るバインダー、遠征を記録する手帳、見せる収納と隠す収納を両立したペンケースなどです。装飾より収納・記録の実用機能が売れ行きを左右します。
常設棚とポップアップストアはどう使い分けますか?
ポップアップは集客力が高い一方で企画工数が読めません。未来屋書店の常設棚のように中身のIPだけを入れ替える方式なら、店舗側の工数を平準化できます。
特典カード目当ての買い占めはなぜ起きるのですか?
数量限定の付録が書籍本体より高い価値を持つと、早い者勝ちの構造が生まれるためです。2026年7月には店頭混乱を受けて特典配布を中止した書店もありました。
買い占めを防ぐには何を先に決めておくべきですか?
1人あたりの購入点数制限、レジ対応人員、対象書籍の掲示、配布数の店舗間配分です。事後対応ではなく企画段階で設計しておく必要があります。



