推し活×ビジネス

推し活×通信キャリア・​ポイント経済圏|会員基盤を​推し活で​動かす戦略

通信キャリアは、推し選手のデジタルカードやキャラクターを使ったアプリなど、ファン向けの特典を展開しています。各社はこうした特典で、通信契約に加えてポイントや決済サービスの利用を促します。

推し活×通信キャリア・ポイント経済圏のイメージ

背景には、通信料収入の伸びが頭打ちになったことがあります。競争の中心は、決済・金融・ショッピング・エンタメを束ねた「経済圏」に移りました。会員基盤はすでに巨大で、これ以上増やす余地は限られます。そこで各社は、すでにいる会員が毎日サービスを使う理由を探してきました。各社がその理由として選んだのが推し活です。

前提:経済圏はもう「入る」より「開かせる」段階

InfoComニューズレターのポイント経済圏に関する分析(2025年10月時点調査)によれば、楽天経済圏をメインとして使うユーザーは全体の4割弱、サブ利用まで含めると6割強に達します。すでに大半の人が、どこかの経済圏に属している状態です。

若年層の間でもポイ活への意識は高まっています。Skyfallが全国の15〜69歳1,809人を対象に行った2025年の調査では、ポイ活を1か月以内に行った人のうち、物価高で「より意識するようになった」と答えた割合は10・20代が65.3%で、全年代で最も高くなりました。

推し活市場そのものも大きくなっています。推し活総研の調査は、推し活人口を約1,384万人(2025年1月)から約1,940万人(2026年1月)、市場規模を約3.5兆円から約4.1兆円と推計しています(第3回 推し活実態アンケート調査)。財務省のコラム「経済トレンド137:推し活」(2025年)も、15〜79歳の3人に1人が推しを持つとされると紹介しています。

会員の獲得は済み、ポイントを貯める習慣も定着しています。残った課題は、アプリを開く頻度と、決済を自社に寄せる理由です。推し活施策は、この課題の解決に直接つながります。

アプローチ1:毎日開くアプリに、推しを置く

NTTドコモ×ラブライブ!シリーズ

  • 狙い:ポイント・決済アプリを毎日開く動機をIPで作り、経済圏への日常的な接触を増やす
  • 施策:ドコモは2026年7月22日から2027年7月21日まで、dポイントクラブアプリとd払いアプリの「きせかえデザイン機能」に、ラブライブ!シリーズ6作品の全20種類のコラボデザインを提供しています。さらに、「みんなでためたdポイント」が1,000万ポイントに達すると、ドコモが会場にフラワースタンドを贈る仕組みも用意しました。同機能で選べるのは、2026年6月末時点で120以上のIP、400種類以上のデザインです(PR TIMES)
  • 研究所の見立て:この施策の要は、通信インフラ側の追加投資がほぼ不要なことです。必要なのはライセンス費用と運用体制だけです。この条件だったからこそ、ドコモは120IPという規模まで積み上げられました。1IPごとの売上効果は測りにくいものの、400種類のデザインが揃った状態そのものが、他社が短期間では真似できない在庫になっています。さらに、「みんなで貯める」目標にフラワースタンドという推し活の作法を組み合わせました。ポイント獲得を、個人の得から共同の応援へと読み替える工夫です

アプローチ2:契約の手続きに「推しを選ぶ」を入れる

楽天モバイル×楽天イーグルス/ヴィッセル神戸

  • 狙い:グループ内のスポーツ資産を、通信契約の決め手として直接使う
  • 施策:楽天モバイルは2025年5月15日から11月4日まで、新規契約・MNP時に「推し選手」を選んだ人に、MNPで最大14,000ポイント、新規契約で最大11,000ポイントを進呈しました。選んだ選手のデジタルカードも付与しています。2026年8月にはヴィッセル神戸版をリニューアルし、同水準のポイントとデジタルカード「ヴィッコレ」を提供しています(ヴィッセル神戸公式)
  • 研究所の見立て:ポイント額だけを見れば、他社の乗り換えキャンペーンと大差ありません。差がつくのは、申込フォームの中に「誰を応援するか」を選ぶ画面が一枚入っていることです。手続きを進めるだけの作業が、推しを表明する行為に変わります。野球とサッカーで同じアプローチを横展開している点からも、楽天がこの一枚の効果を認めていることがうかがえます。球団推しの文化と契約導線を接続する設計は、グループ内に球団を持つ企業にしかできません

アプローチ3:決済インフラを「応援」の文脈に置き換える

NTTドコモ×Jリーグ「推しJ」

  • 狙い:d払いという決済手段を、クラブと地域への応援という感情の文脈に結びつける
  • 施策:ドコモは2026年2月6日から6月30日まで、Jリーグ公式チケットサイトで500円以上をd払い決済した人から、抽選10,000名に1,000ポイントを進呈しました。ホームスタジアムまたは「d払い×クラブ応援店」で500円以上決済した人からは、毎月抽選100名(総計500名)に5,000ポイントを進呈しています(PR TIMES/NTTドコモ)
  • 結果:2026年1月31日時点で応援金総額3,500万円を突破、参画クラブ46(Jリーグ全60クラブ中)、参加サポーター延べ27万人と発表されました(施策全体の累計値)
  • 研究所の見立て:3,500万円という金額は、クラブ経営から見れば大きくありません。意味を持つのは金額より、日常の決済が応援の集計に載るという体験のほうです。スタジアムの外の飲食店を「応援店」として巻き込んだ設計も重要です。応援店でd払いを使う理由が、還元率から地域とクラブへの貢献に変わります。ドコモは2017年からJリーグに協賛し、10年目を迎えました。この長い協賛期間があって初めて、決済と応援を同じ文脈で語れる関係ができています

アプローチ4:通信技術そのものを、推し活の価値にする

JAL×KDDI「デジタル×推し活」Trip XR

JALとKDDIは2024年、KDDIの「STYLY Spatial Computing Lab」や日本Xrealと連携し、旅先での聖地巡礼や謎解きなどの推し活体験でスマートグラスの使い道を検証する「Trip XR」を発表しました(KDDI)。これとは別に、JALはバンダイナムコフィルムワークスなどと、ラブライブ!の周遊企画を2025年10月6日から2026年5月31日まで販売しました。価格は1コース3,300円、3都市満喫パック8,800円でした(JALのプレスリリース)。

NTT×IOWN×VTuber「推しとハイタッチできるVRファンミーティング」

  • 狙い:次世代通信基盤IOWNの価値を、価格や速度ではなく「推しとの身体的な近さ」で証明する
  • 施策:2026年3月15日の実証では、ドコモのXRスタジオ(東京都港区)と実験会場(武蔵野市)をIOWN APNで接続しました。NTTが開発したVR触覚通信技術「Self-Haptics」を市販VRゴーグルと組み合わせ、遠隔地からVTuberとのハイタッチの触感を再現しました(NTTニュースリリース)
  • 結果:参加者39名のアンケートでは、「ハイタッチの感覚」「バーチャルキャラクターとの一体感」などの評価が高くなりました。全員が満足度「やや満足」以上と回答し、再参加の意向を示しました(MoguLive)
  • 研究所の見立て:39名という規模は小さく、成果として大きく語れる数字ではありません。それでも、通信各社が推し活を技術の実証フィールドに選んだことには意味があります。利用者は、回線速度の差をもう体感できません。一方で「企業勢VTuberと握手した感触が届く」は、誰にでも分かる差です。ドコモは2018年の5G×8K VRライブ配信実証から同じ方向の取り組みを続けており、IOWNの企画もその延長にあります

4つのアプローチを比べる

アプローチ使う資産初期投資測れる成果
アプリきせかえポイント・決済アプリ小(ライセンス中心)アプリ起動頻度、IP数の積み上げ
推し選手選択グループ内の球団・クラブ中(ポイント原資)新規契約・MNP数
決済×応援決済インフラ・加盟店網中(原資と加盟店調整)決済額、応援金、参加人数
技術実証5G・IOWN・XR大(機材・回線・スタジオ)参加者評価、商用化の可否

上の2つは既存資産の再利用、下の2つは新しい投資です。多くの企業にとって現実的なのは前者ですが、差別化しやすいのは後者です。

成功パターンと注意パターン

観点うまくいっている型つまずきやすい型
日常導線毎日開くアプリの中にIPを置く別アプリ・別サイトを新設する
選択の余地推し選手・推しクラブを本人に選ばせる運営側が対象IPを一つに決め打ちする
地域接点応援店として地元の店舗を巻き込む都市部の大型会場だけで完結させる
継続性協賛を年単位で続け関係を育てる単発コラボで話題化だけを狙う
条件の明示期限・達成条件を最初に大きく出す特典を前面に出し条件を後ろに置く
技術実証小規模で試し評価を取ってから広げる実証のまま商用設計に接続しない

つまずきやすい型の中でも、最後から2番目の行は実際によく起きます。ポイント経済圏の施策は期間限定・条件付きが基本で、締切に気づかず参加できなかったという不満が構造的に生まれます。還元率の改定に既存ユーザーが反発する例も、業界横断で繰り返されてきました。後々の評判は、特典の大きさより条件の見せ方で決まります。

企業担当者向け:会員基盤を推し活で動かす6手順

  1. 既存導線の棚卸しから始める:新しいアプリを作る前に、いまユーザーが毎日開いている画面のどこにIPを置けるかを洗い出す
  2. IPを1つに絞らない:ドコモの120IP・400デザインの例のとおり、数が揃って初めて、利用者にとって「自分の推しがある」状態になります
  3. 選択の一手間を入れる:推し選手・推しクラブを本人が選ぶ画面を入れると、手続きが推しの表明に変わります
  4. 地域の加盟店を巻き込む道を検討する:応援店の設計は自治体・商店会との調整が要るぶん、他社が模倣しにくい資産です
  5. 技術実証は小さく始め、評価軸を先に決める:39名でも、聞く項目が定まっていれば商用化の判断材料になります
  6. 期限と条件を最初のページに置く:期間限定施策ほど、締切の告知が満足度を左右します

権利処理では、対象ごとに交渉相手が違う点に注意が必要です。IPコラボは制作委員会、選手個人の肖像は球団・クラブ、VTuberは運営企業(個人勢は本人)が相手になります。準備期間の目安は、スポーツ連動がシーズンカレンダーに合わせて数か月、アプリのIP展開が数か月〜半年、技術実証が年単位です。

推し活未来研究所メモ:応援は、通信会社が売れる数少ない差別化

通信キャリアの商品は、突き詰めると比較表で選ばれます。比べられるのは月額、通信量、還元率です。どれも数字で並べられ、優劣が一目で分かります。だからこそ各社は経済圏を作り、乗り換えのコストを上げてきました。推し活施策はその延長線上にあるように見えますが、少し性質が違います。

きせかえも推し選手も応援金も、契約者に「自分で選んだ」という感覚を残す設計です。ポイントを受け取るだけなら受動的ですが、誰を応援するかを選べば、その選択は自分の判断になります。人は自分で選んだものからは離れにくいものです。ドコモはJリーグに10年協賛し、d払いの決済を応援金に読み替えてきました。研究所はこの取り組みを、その効果を長期で積み上げるための時間の使い方だと考えています。

一方で、IOWNのハイタッチ実証が39名で終わっていることも忘れるべきではありません。技術で推しとの距離を縮める試みは、まだ商用化の手前の段階にあります。研究所は次の1年で、あの触感を何人が体験できたかを見ていきます。焦点は、推し活を経済圏の集客手段として使う段階から、通信技術でしか作れない体験を売る段階へ移れるかです。この段階に移れた会社は、比較表だけで選ばれる状態から抜け出せます。

関連記事:推し活マーケティングとは/Jリーグと推し活/ファンマーケティングとは/推し活の市場規模【2026年版】

よくある質問

なぜ通信キャリアが推し活に力を入れるのですか?

通信料収入の伸びが頭打ちになり、競争の中心が決済・金融・エンタメを束ねた「経済圏」に移ったためです。各社は推し活を、多数の既存会員が毎日サービスを使う動機として活用しています。

アプリの「きせかえ」とは何ですか?

dポイントクラブアプリやd払いアプリの画面デザインをIPのイラストに変更できる機能です。ドコモは2026年6月末時点で120以上のIP、400種類以上のデザインを提供しています。

「推しJ」とは何ですか?

NTTドコモがJリーグと実施している応援施策です。応援クラブの券面を設定してdポイントを貯めると、そのポイントの5%相当額がドコモから対象クラブに応援金として届けられる仕組みです。2026年1月31日時点で、応援金総額は3,500万円を突破したと発表されました。

推し選手キャンペーンはどんな仕組みですか?

楽天モバイルの新規契約・MNP時に応援したい選手を選ぶと、ポイントと選手のデジタルカードがもらえる仕組みです。楽天モバイルは、楽天イーグルスとヴィッセル神戸でこの施策を実施しています。

通信キャリアの推し活施策で注意すべき点は何ですか?

条件と期限の分かりにくさです。期間限定・条件付きの施策が多く、締切に気づかず参加できなかったという不満が起きやすくなっています。