推し活ビジネス戦略

企業はどう推し活を取り入れる?——ファン獲得戦略・前編

ファンが戻りたくなる体験と、企業の価値を重ねます。 ビール、駅、カラオケの事例から接点の作り方を比べます。 運営側の姿勢がコミュニティの信頼を左右します。

5章

EPISODE 619:06

この回の最初の章推し活ビジネスは、グッズを増やすことではない

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推し活ビジネスは、グッズを増やすことではない

企業が推し活に取り組むとき、まずコラボグッズや限定商品を考えがちです。しかし、ファンが求めているのは所有だけではありません。好きな対象について話せる場所、同じ気持ちの人と出会う場、応援が届く実感も含まれます。

成功事例に共通するのは、商品を買う前後の体験が設計されていることです。売上の手前にある「好きになれる時間」を作ることが、長期の関係につながります。

ファン側が企画を選ぶときは、限定という言葉だけでなく、対象への理解が体験に表れているか、購入しなくても楽しめる情報があるか、参加後に何が残るかを見られます。企業側は、認知を得たいのか、仲間と集う場を作りたいのか、継続利用へつなげたいのかを先に決めます。目的が違えば、必要なのは商品数ではなく、説明、会話、再訪の導線かもしれません。

施策の評価も、発売直後の売上だけでは足りません。イベントで初参加者が会話へ入れたか、応援広告を見た人が元の活動を知れたか、カラオケの場をまた使いたいと思えたかを、事例ごとの目的に沿って確かめます。ファンの写真や投稿を成果として使う場合は、事前に利用範囲を示し、協力しない人も同じ体験を選べるようにします。終了後に参加者へ何が改善されたかを返すと、アンケートも集めるだけで終わりません。企業が受け取る熱量と、返す価値を具体的に対応させることが必要です。

ファンを作ろうとする企業が最初につまずくのは、対象を決めきれないことです。誰にでも好かれようとすると、誰の心にも残りません。

好きになってもらう相手を絞ることは、他を切り捨てることではありません。入口を一つはっきり作るという意味です。そこから広がることは、あとからいくらでも起きます。

FAN BUSINESS企業の接点を4つの体験で見る
  1. 知る物語・情報
  2. 集うコミュニティ
  3. 参加企画・投票
  4. 持ち帰る商品・記憶

商品は最後の一段。最初の三段があると、応援の意味が残ります。

ファンの生活に合わせ、無料の情報から有料の体験まで複数の入口を用意します。

買わない日にも関係が続く設計が信頼になります。

ヤッホーブルーイングは、ファンと社員が一緒に場を作る

ヤッホーブルーイングの「よなよなエールの超宴」は、約500人規模から2018年には5,000人規模へ広がりました。ビールを飲むだけでなく、社員もファンの一員として参加し、ブランドの言葉を会場で体験できる場です。

ファンイベントの強さは、広告では伝わりにくい温度を持つことです。企業の中の人が本当に楽しんでいるかが伝わる。理念が行動になって初めて、共感は続きます。

社員が前に出ることは、親しさを演出するだけではありません。商品への質問に答え、寄せられた不満を持ち帰り、次の場で改善を示すところまで続いて対話になります。運営は常連の内輪話だけで進めず、初参加者が会話へ入れる紹介や一人でも過ごせる場所を整えます。ファンは、楽しい雰囲気に加えて、自分の声が雑に扱われないかを見て企業への信頼を判断します。

取り上げた事例も、すべての企業に当てはまるわけではありません。業種や規模で条件は変わります。

事例を集めていくと、うまくいっている企業に共通点が見えてきます。派手さではなく、続けていること。一度の大きな企画より、小さな接点を長く保っているほうが結果につながっています。

続けるためには、担当者一人の熱意に頼らない仕組みが要ります。人が変わると止まる取り組みは、ファンから見れば急に冷たくなったように映ります。

FUNNEL企業がファンを得るまでに人が減る場所
  1. 知られる広告・口コミ・検索
  2. 試される一度使ってみる
  3. 気に入られる期待どおりだった
  4. 語られる人に話す・投稿する
  5. 応援される続いてほしいと思われる

推し活未来研究所による整理。どこで落ちているかを知らないまま広告を足しても、上の段が太るだけです。

JR東日本「推しSta!」は、応援を街の風景にする

JR東日本の「推しSta!」は、駅のデジタルサイネージへファンが共同で応援広告を出せる仕組みです。1口1万円程度から参加でき、オンラインの気持ちが駅という現実の場所へ現れます。

応援広告は、推し本人へ届けるだけでなく、通りすがりの人に存在を知ってもらう行為でもあります。ファンがメディアの作り手になることで、応援の意味が広がります。

推される企業になることは、目的ではなく結果です。狙って作れるものではありませんが、邪魔をしないことはできます。

ただし、広告を出せる人だけが中心になると、参加格差が生まれます。無料でメッセージを寄せる、展示を見る、地域のルールを守るなど、多様な参加方法を残すことが重要です。

カラオケパセラは、推しカラーを自分の時間へ取り込む

カラオケパセラの推し活プランは、グッズを飾れるスペースや、イメージカラーに合わせたドリンクなど、ファンが自分の推しを持ち込める体験を用意しました。専門店でなくても、日常のサービスを推し活の場へ変えられます。

企業が世界観を決めすぎると、ファンの解釈が入りません。自分のグッズや思い出を置ける余白があるから、同じプランでも一人ひとりの体験になります。

社内で理解を得ることも、実は大きな課題です。ファンとの関係づくりは、効果が数字に出るまで時間がかかります。短期の売上で評価される部署では、続ける許可が下りません。

だから最初に決めておきたいのは、何をもって成果とするかです。売上以外の指標を一つでも持てれば、すぐに売れなくても続けられる理由になります。

小さく始めることも有効です。全社的な企画にすると承認に時間がかかり、動き出す頃には熱が冷めています。一店舗、一商品から試すほうが早く学べます。

FAN BUSINESSファン獲得施策を考える4問

ファンが自分の推し方を持ち込めると、同じサービスでも体験は一人ひとり違います。企業は完成した正解を渡すのではなく、使い方を発見できる余白を残します。

接点を増やすほど、個人情報や写真、会場の安全にも配慮が必要です。楽しい時間を守る運営まで含めて、ファンビジネスの価値を考えます。

まとめ:ファンを増やすのは、信頼を積み上げる仕事

  1. 体験を先に作る知る・集う・参加する時間が、商品を意味あるものにする。
  2. 人の顔を見せる社員とファンの対話が、企業の本気を伝える。
  3. 余白を残すファンが自分の推し方を持ち込める場を設計する。

推し活ビジネスは、ファンの熱量を取り込むだけの施策ではありません。企業が文化を学び、場を整え、応援を安全に続けられるよう支える活動です。

ファンが帰る場所を持てると、ブランドは単なる購入先から、思い出を共有する相手へ変わります。その場所は常設店舗に限らず、次の開催日が分かるイベント案内や、過去の参加記録を読めるページでも構いません。関係を続ける約束が見えることが重要です。

後編では、実際に推されている企業が何をしているのかを、もう少し具体的に見ていきます。共通しているのは、特別なことをしているわけではないという点です。