推し活文化・社会

キャバ嬢を推す女性たち——LAST CALLと「憧れ」のビジネス

キャバ嬢を推す女性たちは何に憧れるのか。LAST CALLとNetflix「ダウンタイム」から、番組・イベント・美容医療をつなぐ商売と、本人が選ぶ権利を考えます。

6章

EPISODE 6629:03

この回の最初の章挑戦を見続けたくなる番組の作り方

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お店に行ったことはないのに、キャバ嬢の動画を見てしまう。話し方や仕事への姿勢が気になり、次の投稿も追いかける。そんな応援を、店舗での接客だけで説明することはできません。好きになった入口と、お金を払いたくなる体験が、別々の場所にあるからです。

今回のPodcastでは、キャバ嬢育成オーディション番組「LAST CALL(ラストコール)」と、美容整形業界を描くNetflixのドラマ「ダウンタイム」を取り上げました。人が変わる過程に集まる注目が、どこで商売になるのか。そして、応援する側が決めてよい範囲はどこまでなのかを考えます。

挑戦を見続けたくなる番組の作り方

「LAST CALL」は2026年1月4日にYouTubeで配信を始めたオーディション番組です。MCは溝口勇児さんとROLANDさん。プロデューサーには「学校へ行こう!」「ガチンコ!」の企画に携わったおちまさとさんを迎えています。応募者の受け答えや接客の実演を、審査する人の反応とともに見せる構成です。

完成した人気者を紹介するだけでなく、これからどう変わるのかを見せるところに、続けて見る理由があります。話し方に驚く人もいれば、仕事への覚悟に注目する人もいます。審査員同士の判断が違えば、視聴者も自分ならどう受け止めるかを考えられます。選ばれる瞬間だけでなく、その途中が番組になるのです。

この数字から考えたいのは、番組を見る人と、お店で接客を受ける人が必ずしも同じではないことです。ファッションに興味がある人、稼ぎ方を知りたい人、挑戦者の変化を追いたい人では、番組の楽しみ方が違います。女性視聴者が多いという結果だけで、その全員が同じ憧れを持っているとは言えません。

また、短い動画で目を引く力と、お客様の話を聞き、日々の接客を続ける力も分けて考える必要があります。強い一言は映像の見せ場になりますが、それだけで仕事の全体は伝わりません。誰かの評価に賛成する前に、その場ではどんな能力が見えるように編集されているのかを考えると、番組との距離を取りやすくなります。

番組のファン、お店のお客様、医療の利用者

番組が多くの人に見られても、全員を同じ商品へ案内する必要はありません。出演者に会いたい人にはイベントがあり、接客を受けたい人には店舗があります。服装や生活の工夫を参考にしたいだけなら、動画を見続けること自体が楽しみになります。関心の違いを無視すると、視聴回数をそのまま来店数や売上に読み替えてしまいます。

台本で取り上げたイベントや撮影の体験も、こうした行き先の一つです。画面越しに知っている人と同じ場所にいられること、一緒に写真を残せることに価値を感じる人がいます。お店の常連になるつもりがなくても、一度のイベントには参加したい。その気持ちは、同じ出演者への関心から生まれていても、接客を買う理由とは異なります。

DIAGRAM同じ番組から、違う関心へ広がる
  • 番組を見る挑戦する姿を知る
  • 出演者に会うイベントを楽しむ
  • 接客を受けるお店で時間を過ごす
  • 美容を調べる必要なら専門家へ相談する

全員が同じ順番で進むわけではありません。視聴だけを楽しむ人もいます。

事業として確認したいのは、それぞれの場所で、誰が、何に、いくら払うのかです。動画を見た人数、チケットを買った人数、相談を予約した人数は別の数字です。再生が増えたことは注目の証拠になりますが、購入した人が満足したことや、出演者の働きやすさまで証明するわけではありません。

推し活未来研究所では、入口を増やすことと同じくらい、行き先の違いを分かりやすくすることが大切だと考えます。イベントなら出演内容や変更時の対応、店舗なら料金や過ごし方が判断材料になります。美容医療であれば、番組への好感とは別に、本人に必要かどうかを専門家と確かめる時間が必要です。

最大1,000万円分の支援で、誰が何を得るのか

運営会社の発表では、合格者にSBC湘南美容クリニックから最大1,000万円分の美容整形サポートが提供されます。この金額は、現金の賞金ではなく、施術の支援枠です。実際に全員がその金額の施術を受ける、本人が同額の利益を得る、という意味ではありません。

番組とスポンサーの関係を考えるとき、会社名が画面に出る回数だけを数えても全体はつかめません。医師が出演して考え方や話し方を見せると、視聴者はサービスを人の顔と結び付けて覚えます。出演者を支える役割で登場することで、単独の広告とは違う文脈で知られる機会が生まれます。これは事業の仕組みについての考察であり、個別の売上効果を示すものではありません。

支援をする側と受ける側では、成果を測る時間が違う

番組・スポンサー見てもらう機会

配信の中で名前や取り組みが知られます。再生数や反応を短い期間で確認できます。

挑戦者本人その後の生活

仕事や身体との付き合いは配信後も続きます。本人の納得や継続的な支援も必要です。

大きな支援額を見ると、用意されたものを全部使うほど得だと感じるかもしれません。しかし、医療では支出の多さが本人にとっての価値を決めるわけではありません。受けたい内容、受けないという選択、回復に必要な時間を、一人ずつ考える必要があります。番組として見せたい変化と、本人が望む変化がいつも一致するとは限りません。

見た目への支援があっても、知られる力や、お客様と関係を続ける力が自動的に身につくわけではありません。視聴者には親しみを感じてもらえても、遠くに住んでいる人や、動画だけを楽しみたい人もいます。支援を評価するなら、注目された直後だけでなく、その後にどんな仕事や相談の機会が残るかまで見る必要があります。

見た目と賃金の研究から、言えること・言えないこと

美容を「自分への投資」と呼ぶと、かけたお金が後で戻ってくるように聞こえます。番組では、経済学者Daniel S. HamermeshとJeff E. Biddleの研究「Beauty and the Labor Market」を紹介しました。1970年代から1980年代初めの米国・カナダの調査を使い、調査員による外見の評価と賃金の関係を調べた研究です。

研究では、年齢などの条件を考慮しても、外見の評価が低かった人の賃金が、平均的と評価された人より5〜10%低いという差が報告されました。ただし、美容整形の前後を比べた研究ではありません。この数字を、施術で収入が何%増えるという説明へ置き換えることはできません。

たとえば、ある特徴を持つ人に高い賃金が見られたとしても、その特徴だけを変えれば同じ結果になるとは限りません。仕事の種類、周囲からの扱い、本人が積み重ねてきた経験などが関係する可能性があります。古い北米の調査を、そのまま現在の日本での施術費用の回収計算に使うこともできません。

DIAGRAM観察された差と、施術の効果は別の問い
  1. 研究の対象外見評価と賃金の関係
  2. 読み取れること調査の中に差がある
  3. 飛ばせない確認施術で何が変わるかは別途検証

差が見つかったことから、個人への効果や費用の回収を約束することはできません。

さらに、本人が引き受けるものは費用だけではありません。相談や通院の時間、仕事や生活の予定、回復までの過ごし方があります。これらを抜いたまま、金額だけで損得を比べると、その人にしか分からない負担が消えてしまいます。見た目を変える選択を肯定する場合も、変えない選択をする場合も、本人の事情から考える必要があります。

外見によって扱いに差が生じるという研究は、人を見た目だけで判断する環境を問い直す材料にもなります。本人が費用をかけて社会の評価に合わせればよい、と結論付けるための数字ではありません。努力や接客の技術がどのように評価されるかを考えることも、仕事を支える側にできることです。

「ダウンタイム」が見せる、変わる途中の時間

Netflixの「ダウンタイム」は、2026年9月17日に配信が始まった、美容整形業界を舞台にしたドラマです。松岡茉優さんが演じる形成外科医と、仲里依紗さんが演じる美容外科医の異なる価値観を通じて、美と医療をめぐる希望や葛藤を描きます。実際のオーディションを見せる「LAST CALL」と、創作のドラマという違いがあります。

Netflixの公式紹介では、施術前と施術後だけでなく、その間の回復期間も作品の重要な要素として説明されています。変化する前と後の写真を並べれば、結果は短い時間で伝わります。しかし、その間を過ごす本人には、映像で省略できない日々があります。華やかな結果を見た人と、その過程を生きる人の時間は同じではありません。

「LAST CALL」と並べて考えると、変化を待つ側にもいくつかの立場が見えてきます。視聴者は次の回を楽しみにし、番組は配信予定を持ち、出演者は自分の生活を続けています。それぞれの予定がある中で、本人が考え直したり、立ち止まったりする余地は残っているでしょうか。これは特定の出演者の選択を評価する話ではなく、人を扱う企画全般への問いです。

厚生労働省は、美容医療を受ける前に、効果だけでなくリスクや副作用、ほかの方法、今すぐ必要なのかを確かめるよう案内しています。施術についての判断は、本人が医師から説明を受けて行うものです。番組への好感や周囲の期待と、自分が納得して選ぶことを混ぜないための確認になります。

ドラマの登場人物に共感することや、番組の出演者に憧れることは、新しい世界を知る入口になります。その共感から、自分も同じ選択をしなければと急ぐ必要はありません。物語を楽しむ時間と、医療について考える時間を分けて持てることが、見る側にとっても大切です。

「そのままでいい」も商売になる。では誰が決めるのか

「変わりたい」という気持ちの反対側には、今の自分を大切にしたいという気持ちがあります。ボディソープなどで知られるDoveは、Real Beautyの取り組みを通じて、一つの理想像に人を当てはめない美しさを伝えてきました。親会社Unileverの紹介でも、外見への不安ではなく自信につながる美しさを目指す姿勢を掲げています。

このメッセージに共感できることと、Doveが商品を売るブランドであることは両立します。研究所では、「変わる可能性」を見せる方法と、「今の自分を尊重する」方法のどちらも、顧客との関係の作り方として考えられると捉えています。商売だから気持ちがすべて偽物になるわけでも、共感できるから広告ではなくなるわけでもありません。

ただし、石けんを買うことと、医療の施術を受けることでは、身体への影響や選び直しやすさが違います。どちらも自分を大切にする行動と呼べても、同じ負担として扱うことはできません。メッセージの心地よさだけでなく、その先で自分が何を選ぶことになるのかを見ておきたいところです。

POINTS推しの変化を見たときに考えたいこと

  • 自分の好みに合うかだけでなく、本人が語っている理由にも目を向ける。
  • 写真や短い動画から、健康状態や医療上の事情を決めつけない。
  • 長く応援したことや払った金額を、本人に従ってもらう理由にしない。

ファンは、長く見ているからこそ分かる仕事の工夫や、表現の変化に気づける存在でもあります。新しい写真を以前の写真と比べて外見だけを評価するより、何のための変化だったのかを知ろうとする。その姿勢なら、本人の選択を奪わずに、関心を持ち続けることができます。

チケットを買えば、公演やイベントの体験を得られます。グッズを買えば、その商品が手元に残ります。しかし、支払いに含まれているのは、推しの身体や人生を決める権利ではありません。応援が大きな市場になるほど、買える体験と、本人が決めることの境界を丁寧に扱う必要があります。

  1. 関心の行き先を分けて見る番組を見る人、イベントへ行く人、店舗や医療を利用する人では、求めるものが違います。
  2. 支援額だけで価値を決めない本人に必要な選択や、配信後の仕事と生活まで含めて支援を考えます。
  3. 応援しても、決めるのは本人憧れや共感を楽しみながら、本人が選び直せる時間と権利を尊重します。

憧れをビジネスにすることと、人を大切にすることは両立できるはずです。そのためには、注目が集まる瞬間だけでなく、注目の先で誰が何を引き受けるのかを見る必要があります。推す側にも、企画する側にも、その視点を持つ余地があります。