推し活ビジネス戦略

ディズニー vs USJ 推し活戦争——IP体験設計の天国と地獄

ディズニーの「いつでも帰れる世界」と、USJの「今しかない体験」。二つのテーマパークのIP戦略を、推し活ビジネスの視点で比べます。

6章

EPISODE 4923:19

この回の最初の章テーマパークは、推しの世界へ会いに行く現場になった

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テーマパークは、推しの世界へ会いに行く現場になった

テーマパークでファンが買っているのは、乗り物に乗る権利だけではありません。推し色の服を選び、作品の風景を歩き、限定フードを食べ、グッズと写真を撮る。準備から帰宅後の共有まで含めて、一つの推し活体験になっています。

この変化は、来園の準備期間の長さにも表れています。行く日を決めてから当日までの数週間、服を探し、回る順番を調べ、一緒に行く人と相談する。その時間もすでに体験の一部です。

同行者との相談も、この体験の一部です。誰と行くかで回る場所も変わり、写真の残り方も変わります。

東京ディズニーリゾートとUSJは、どちらも強い没入感を作ります。しかし、その方法は対照的です。ディズニーは好きな世界を壊さず深くし、USJはいま熱い世界を現実の体験へ翻訳します。

この違いは、来園の頻度にも表れます。帰る場所として通う人は、一年に何度も同じ場所へ行き、変わらないことに安心します。追いかける人は、企画のたびに訪れ、前回とは違う体験を求めます。

どちらが優れているという話ではありません。ただ、同じ施設で両方をやろうとすると、どちらの期待も裏切りやすい。二つのパークが別々の形に落ち着いているのは、この難しさの結果でもあります。

二つのIP体験設計

DISNEY何度でも帰れる世界

自社IPを長く育て、物語、空間、ホテル、商品を一つの世界として保つ。

USJ今しか会えない世界

外部IPも横断して編集し、期間限定の参加体験へ変える。

ディズニーは、自社IPを「一生推せる世界」へ育てる

ディズニーの強みは、映画、キャラクター、アトラクション、ホテル、商品を同じ物語の中で動かせることです。東京ディズニーシーのファンタジースプリングスでは、作品を見るだけでなく、風景や音、食事、滞在まで物語の一部として体験できます。

自社で作品を持っていることの利点は、期限がないことです。契約で使える期間が決まっていれば、その先の投資はできません。長く使えると分かっているから、建物や街並みに大きな費用をかけられます。

この設計では、ファンが鑑賞者から登場人物へ近づきます。子どもの頃に好きだった作品へ大人になって戻り、自分の子どもと同じ場所を歩くこともできる。IPの価値を一回のヒットではなく、世代をまたぐ記憶として積み上げられるのがディズニー型の強さです。

世界観を保つことは、実際にはかなりの制約を伴います。園内で流れる音楽、スタッフの言葉づかい、ごみ箱の見た目に至るまで、物語から外れるものを置けません。効率だけを考えれば、割に合わない選択の連続です。

それでも守り続けるのは、一度壊れた没入感は戻らないからです。現実に引き戻される瞬間が一つあると、その日の体験全体の記憶が変わる。細部への投資は、体験の記憶を守るための保険に近いものです。

USJは、旬のIPを「今しかない体験」へ変える

USJは、自社だけでなく、アニメ、ゲーム、ミステリーなど幅広いIPを組み合わせます。ユニバーサル・クールジャパンでは、異なる作品のファンが同じ時期に集まり、作品ごとの遊び方をパーク体験へ落とし込みます。

違う作品のファンが同じ日に集まることには、独特の効果があります。園内で別のIPの装いをした人を見て、その作品を知る。ファンダム同士が自然にすれ違う場所は、そう多くありません。

スーパー・ニンテンドー・ワールドでは、見るだけでなく、動き、集め、挑戦することでゲームの中へ入った感覚を作りました。作品の絵を置くのではなく、ファンが何をすれば主人公になれるかを設計する。ここにUSJの編集力があります。

期間限定には副作用もあります。行けなかった人にとっては、二度と取り返せない体験になるからです。SNSで盛り上がるほど、参加できなかった側の疎外感も強くなります。

だから終了後の扱いが重要になります。映像や記録を残す、常設の展示へ一部を移す、次の企画で再登場させる。終わったあとに何も残らないと、次の期間限定への信頼も減っていきます。

天国は世界の一員になれること、地獄は没入が切れること

テーマパークの満足は、アトラクション単体では決まりません。入園前にルールを調べる、服を選ぶ、当日写真を撮る、帰宅後に投稿する。この流れのどこかで説明不足や長い待ち時間、買い占めが起きると、作品の世界から現実へ急に戻されます。

没入が切れる瞬間は、たいてい運営の都合が見えたときです。急な中止の張り紙、案内の食い違い、売り切れの説明がないこと。作品の世界には存在しないものが、突然目の前に現れます。

ディズニーには、一貫した世界を守るために変化が遅くなる課題があります。USJには、外部IPとの契約や人気に左右され、話題を更新し続ける負荷があります。強みは、そのまま運営上のリスクにもなるため、どちらかを表面的に真似しても同じ結果にはなりません。

とはいえ、価格の上昇は無視できない問題です。家族で行くと一日の総額が大きくなり、以前のように気軽には行けなくなったという声も増えています。

価格を上げる代わりに混雑を減らす考え方は理屈としては通りますが、行ける人だけが行ける場所になるという批判も生みます。誰に向けた場所であり続けるのかという問いから、価格の設計は逃れられません。

IMMERSION CHECKIP体験を途中で切らない4つの接点

  • 来園前に、料金・衣装・撮影ルールが分かる
  • 現地で、作品らしい行動へ参加できる
  • 商品やフードの品質が世界観を支えている
  • 帰宅後も、写真や次の企画で物語が続く

グッズより先に、「ファンが何者になれるか」を決める

EXPERIENCE FLOW推しの世界へ入る5つの段階
  1. 知る作品・企画との出会い
  2. 装う服・色・持ち物を選ぶ
  3. 参加する歩く・遊ぶ・食べる
  4. 残す写真とグッズを持ち帰る
  5. また会う次の来園理由が生まれる

推し活未来研究所による整理。来園後の共有から、新しい人の「知る」へ戻る循環もあります。

グッズは4番目の「残す」を支えるものです。最初から商品だけを考えると、その前にある装いや参加が弱くなり、ファンは世界の外側に置かれます。

体験の中心は、ファンがその場所で何者になれるかです。登場人物、冒険者、応援する仲間。役割が見つかると、来園は消費ではなく、自分の物語になります。

役割が決まると、必要な準備も自然に決まります。冒険者なら地図と道具、応援する仲間なら色と声。ファンは何を持っていけばいいかが分かり、当日までの時間も楽しみに変わります。

逆に役割が曖昧なままだと、来園者はただの見物人になります。写真を撮って帰るだけの体験は、思い出にはなっても、また行く理由にはなりにくいものです。

まとめ:二つのパークは、異なる推し方に応えている

  1. 帰る場所ディズニーは自社IPを長く深く育て、世代を超える記憶を作る。
  2. 今行く場所USJは旬のIPを編集し、期間限定の参加理由を作る。
  3. 物語の中の自分どちらも、ファンが世界の一員になれる体験を設計している。

二つのパークに単純な勝者はいません。ずっと好きな世界へ何度も帰りたい人と、今しかない熱狂を追いたい人では、求める価値が違います。大切なのは、どの推し方に応えるのかをはっきりさせることです。

企業がこの二つから学べることも、はっきり分かれます。長く付き合うIPを育てたいのか、いま話題のものに乗りたいのか。どちらを選ぶかで、必要な期間も費用も体制も変わります。

危ういのは、両方をやろうとして中途半端になることです。話題のIPを借りながら長期の資産にしたいと考えると、契約も設計も噛み合わなくなります。目的を一つに絞ることが、結果として両方に近づくことも少なくありません。

同じ人が、時期によって両方を求めることもあります。落ち着きたい年もあれば、新しいものを追いたい年もある。二つの場所が並んで存在していること自体に意味があります。

強いIPだけでは、強い体験にはなりません。装い、参加、撮影、共有までを一つの物語にできたとき、テーマパークは「遊びに行った場所」から「推しと過ごした記憶」へ変わります。

同じ入園料でも、滞在時間、移動、食事、追加の体験にかかる費用で一日の楽しみ方は変わります。比較するときは、好きな作品があるかに加え、今回の予算と時間で何を体験したいかを先に考えると、自分に合う選び方ができます。